金融庁に背中を押され、すでに地銀は提携に動き出している。今年1月、北海道銀行、七十七銀行、千葉銀行、八十二銀行、静岡銀行、京都銀行、広島銀行、伊予銀行、福岡銀行の地銀9行が連合を組んだ。9行連合から漏れた地銀トップの横浜銀行は今年8月、三井住友信託銀行と業務提携した。有力地銀が再編をにらんだ動きを活発化している中、公的資金のしばりから解放されたりそなが地銀再編のもう1つの核と取り沙汰されているわけだが、今、実質国有化の決断が果たして正しかったのかが改めて問われている。そこに至る経緯にはあまりに不明朗な点が多かったという指摘が多いためだ。
りそな実質国有化と竹中プラン
03年5月17日、小泉純一郎政権(当時、以下同)は、りそなに2兆円規模の公的資金を注入することを決め、りそなは実質国有化された。その国有化を呼んだのは、竹中平蔵経済財政・金融担当相が打ち出した金融再生プログラム、いわゆる竹中プランに盛り込まれた、繰り延べ税金資産査定の厳格化だった。繰り延べ税金資産とは、簡単にいえば将来還付される税額の何割かをあらかじめ自己資本に計上するというもの。銀行には、向こう5年間見込まれる利益の累計額の4割程度を繰り延べ税金資産として計上することが認められていた。
小泉首相から大手銀行の不良債権処理を託された竹中金融相は、繰り延べ税金資産の自己資本への計上を5年分でなく1年分に改めようとした。これを受け、銀行は一斉に反発。5年分を組み入れることが認められていたのが1年分しか算入できなければ、自己資本は大きく目減りして過小資本に転落する。しかもこの提案は、決算期途中のルール変更であり、全国銀行協会会長の寺西正司・UFJ銀行頭取は「サッカーのルールが突然アメフトになった」とコメントした。
結局、銀行と自民党の猛反対で会計ルールの変更は同プログラムに盛り込まれなかったが、その代わりに繰り延べ税金資産の適正化が盛り込まれた。同プログラムは監査法人に対して厳格監査への転換を促したため、りそなの監査を担当していた朝日監査法人上層部は繰り延べ税金資産計上の否認に転換。従来通りの計上を主張して上層部と対立した公認会計士が自宅マンションから飛び降り自殺した。03年5月、新日本監査法人は「繰り延べ税金資産について、3年分しか資本への算入は認められない」と決定。りそなの命運が決まった瞬間だ。りそなの勝田泰久社長は会見の席上、「5月に入って突然、監査法人が方針を変えた。(新日本に)背信だと抗議した」と憤りをあらわにした。
くすぶり続けるインサイダー取引疑惑
こうした経緯で決まった公的資金注入をめぐり、インサイダー取引疑惑も浮上した。一時国有化は企業の法的処理を意味するものであり、例としては旧日本長期信用銀行や旧日本債券銀行が過去に適用された。企業の経営責任、株主責任、債権者責任が厳格に問われる。一方、実質国有化は企業の法的責任を問わずに公的資金で救済するものであり、一時国有化とはまったく異なり、上場も維持された。
しかし、市場ではりそな株の投げ売りが広がっていた。竹中金融相が「退出すべき企業は大企業も同じ」「大銀行でも破綻はあり得る」との方針を打ち出していたため、りそなは旧長銀や旧日債銀のように破綻処理されると考えた市場参加者が一斉に売りに走ったからである。
ところが竹中金融相は方針を転換し、りそなの救済を打ち出した。この方針転換を読んでいたかのように、りそなの株価暴落の過程で、株価の反発を見込み、しっかりとりそな株を買い占めていたのが外資系ファンドだった。公的資金注入の発表を受けて、りそなの株価は急騰。この局面で売り抜けた外資系ファンドは莫大な利益を手にした。これがインサイダー取引疑惑である。
外資系ファンドは、りそな救済というトップシークレットをどこから入手したのか。今日に至るまでインサイダー取引疑惑はくすぶり続けており、金融業界ではりそなの公的資金注入における最大の闇となっている。
(文=編集部)