ストーリーとしての経営戦略は、なぜ重要?成功モデルに共通する3つの「筋」
楠木建・一橋大学大学院教授が2010年に上梓した『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)は、多くの人々に読まれた名著である。しかし、同書が人気を誇る一方で、戦略が「ストーリー」でなければならないということが世の中にいまひとつ浸透していないのではないか。楠木氏はエンターテイナーとしても奇才であり、そのため同書が主としてエンターテインメントとして読まれてしまい、重要な本質である「筋(すじ)」としての戦略論の重要性が疎かにされてしまっているのではないか。そこで今回は、戦略がプロセス、すなわち筋であるということを改めて確認し、戦略を考える上で重要な“筋”をテーマとして考えてみたい。
●戦略とは本来、筋のこと
戦略の「戦」は「いくさ」、つまり競争であるが、「略」というのは「はかりごと」、それも「筋道の通ったはかりごと」を意味する。つまり、戦略という言葉は、その本来の意味からして筋であることを強く示唆している。
言葉だけにとどまらず、軍事を見れば戦略が筋であることは明白であろう。軍事で勝利を収めるためには、戦場を選んだり、兵を鍛えることと共に、いやそれらにも増して戦場における戦(いくさ)の組み立て方、つまりプロセス(筋)が勝敗を決する大きな要因であることは数々の戦記を読めば明白である。実際言葉の使い方としても、戦場の選択(ポジショニング)や兵の鍛錬(組織能力)よりは、戦いの運び方をもって戦略と呼ぶほうがしっくりくるのではないだろうか。
軍事においては「勝ち」という状態をつくり出すために戦を始める前の状態から最終状態である「勝ち」の状態への変化を起こさなければならず、その変化には大小さまざまなプロセスがある。軍事のみならず勝負ごとにおいてはすべて同様であり、将棋や武術においてもやはり試合運びが重要なのであり、その優劣が勝敗を決する。将棋や囲碁のトレーニングに棋譜を用いるのは、この筋として戦略を会得させようとするためである。
ビジネスにおいても、経営資源を投入してそれを売り上げや利益に転換していく必要があり、そこには転換のプロセスがある。このプロセスが筋なのであり、戦略の本質はこの変化のプロセス、つまり筋を計画してコントロールしていくことなのである。