ストーリーとしての経営戦略は、なぜ重要?成功モデルに共通する3つの「筋」
なお、余談だが、この戦略の筋としての特徴を捉えて、戦略を「戦略シナリオ」と呼ぶ人もいる。しかし、有名な戦略立案手法の一つであるシナリオ・プランニングでは、自社戦略ではなく環境変化のプロセスをシナリオと呼んでいるため、戦略の側をシナリオと呼ぶと紛らわしい。シナリオは環境側に対する用語として統一し、自社戦略側にはストーリーという用語を用いるのがわかりやすいと考える。
●ストーリーの持つ力
あまり指摘されていないことだが、戦略のプロセスを「ストーリー(言葉での物語表現)」として仕立てると、副次的に次のようなよいことがある。これらも、戦略を筋として表現すべきといえる大きな理由となりうるだろう。
(1)戦略をストーリーに仕立てると、そのロジックや因果の確からしさが感覚的に検証できるようになる。俗に言う「筋がいい」戦略とは、その筋としてのプロセスが明快であり、因果の蓋然性が高いものをいうのだと理解してよいだろう。反対に「筋の悪い」戦略には、感覚として現実感が持てないものだ。
(2)ストーリーは覚えやすい。人はコンテクスト(文脈)の中で物事を記憶する動物であるということは、単語帳の英単語は全然覚えられないのに映画のストーリーは一度見ただけで細部まで記憶できることからも明白だ。そのため、ストーリーは経営者が従業員に戦略を伝達する媒体として優れているということができ、従業員全員が一丸となって戦略を実現するためのツールとなる。
(3)ストーリーは、戦略実行者自身にとっての演習(シミュレーション)ツールともなる。スポーツ選手が試合の前にイメージトレーニングをし、それが実際に優れて正確な身体の運用につながるように、戦略が実現される過程を具体的にイメージすることが高い結果達成の蓋然性に結びつく。
(4)さらに戦略をストーリーに仕立てることは、単なる戦略的意図の伝達や演習を越えて、組織的な意識の高揚を生むのではないだろうか。これは米心理学者ミハイ・チクセントミハイが言う「フロー」のようなもので、ストーリーは人心をして集中させ、一段上の成果を生み出す触媒となる。「フロー」という言葉が「流れ」を意味しているのは、きっと偶然ではあるまい。