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モデルルームの維持費も含まれる?気がつけば予算の倍額で契約…

宣伝・営業経費で50%!?大手ハウスメーカー価格のカラクリ

文=横山渉/フリージャーナリスト
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宣伝・営業経費で50%!?大手ハウスメーカー価格のカラクリの画像1「Thinkstock」より
 昔から日本の戸建て住宅建築費は、世界的にみて高いといわれている。円高という事情もあるが、アメリカやイギリスなどでは、日本の約半分の価格で住宅を手に入れることができる。しかも、家の寿命は日本の3~5倍、日本の住宅よりもはるかに高断熱高気密なので、住環境も快適だ。

 どうして、日本の消費者は、そんなに高い買い物をさせられているのか?

 住宅・公共用エクステリア製品の設計・製造を手がける、傳來工房の橋本和良社長に住宅業界のウラ話を聞いた。

 住宅事情を欧米と比較すると、日本はまだまだ遅れており、住宅価格の年収倍率は、東京の12.9 倍、大阪の9.5 倍に対して、ニューヨークは2.9 倍となっている。

「一坪26万円で家ができます!」といった類の広告を見たことがあるという人も、少なくないだろう。こうした広告をそのまま鵜呑みにすれば、日本の住宅もかなり安そうに見える。坪単価とは3.3平方メートルあたりの価格だが、坪単価×建築面積が必ずしも家の価格とはならない。住宅には坪単価表示において、きちんとした定義づけがないのが実情だ。

 住宅価格は施工部位によって、

 ・本体工事価格(柱・壁・屋根・窓・建具・内外装などの工事)
 ・付帯工事価格(電気・ガス・水道工事・浄化槽などの工事)
 ・オプション工事価格

の3つに大きく分けられる。このうち、本体工事と付帯工事が伴わなければ、家として成り立たない。表示された坪単価には、このうちの付帯公示価格が含まれていないことが多い。

 橋本社長によれば、オプション工事もくせものだという。

「価格表示が曖昧にされています。一般に坪単価を表示した家は、あらかじめ設定したモデルプランがありますが、オプション工事はモデルプランにはない追加・変更プランの工事金額なので、想定外金額として坪単価に含まれません」

モデルルームは1棟1億円

 日本ではテレビで大量のCMを流しているような大手ハウスメーカーに、建築を依頼する人が多い。しかし、そうした大手は、相対的に価格が高いと考えたほうがいい。

 ここで、住宅価格の基本的なコスト構造を説明しよう。

 まず、「実質工事価格」。これは、材料費や職人さんたちの人件費など、工事の原価だ。

 次に「下請けマージン」。橋本社長は次のように説明する。

「大手ハウスメーカーは、家を販売するだけで実際の工事はできません。そこで、下請けの工務店に工事を丸投げします。そして、その工務店がさらに下請け(孫請け)の工務店に工事を投げ、孫請けの工務店はさらに下請けの専門業者に工事をさせます。それぞれがマージンを取るので、いらない経費がどんどん増えてしまいます」

 大手ハウスメーカーはどこも豪華なモデルルームを持っている。その建築費と維持費は1棟、約1億円とも言われている。

「電気代、水道代、冷暖房代、おしゃれな空間を演出するダイニングセットやソファ、観葉植物など、維持費に毎年何百万円もの費用をかけています。費用は、そのハウスメーカーで家を建てた人たちが、負担しなくてはなりません。モデルルームは家を見せるためにつくられたものではなく、夢を見せるためにつくられたものです。一歩足を踏み入れれば、金銭感覚は平常でなくなり、考えていた予算はいつの間にか膨れ上がっていきます」

 さらに、営業マンの人件費も膨大だ。

「大手ハウスメーカーはたくさんの営業マンを抱え、人海戦術で家の受注を獲得していきます。その大量の営業マンたちの給料や福利厚生費、教育費なども、すべてそのハウスメーカーで家を建てた人たちのコストになります」

 広告宣伝費は、ゴールデンタイムに放映されるテレビCM、新聞や雑誌のフルカラー広告、豪華なカタログやパンフレットなどだが、全国区の大手はどこも巨額の宣伝費を使っている。一方で、不必要な宣伝広告費をすべて顧客に還元している会社もある。

「例えば、工務店がかける広告宣伝費は、通常、工事費の1~3%程度。宣伝広告費をほとんどかけず、口コミだけでお客様が集まってくる会社では、無駄な販売経費をかけない分、費用のすべてを良い家を建てることだけに使うことができます」

省エネ住宅の価格には注意が必要

 大手ハウスメーカーの場合、いかに実際の工事費以外の経費がかかりすぎているかがわかっただろう。これでは、工場で大量生産していても高くなってしまう。

「大手ハウスメーカーが3000万円で建てた家と同じグレードの家を地元の工務店が建てたら、2200万~2400万円ぐらいで済む」

と橋本社長は言う。

 東日本大震災以降はエネルギー問題への関心の高まりで、省エネ住宅が人気だが、この省エネ住宅についても橋本社長は警鐘を鳴らす。

「北海道の次世代省エネルギー基準をクリアする高断熱高気密住宅を建てるには、坪単価70万円以上するのが常識となっています。しかし、この坪単価70万円という数字は、あくまでも大手ハウスメーカーの相場。そこには膨大な広告宣伝費や下請けマージンなども含まれており、これらの経費は、住宅建築費のおよそ5割にも及ぶという話もあります」

 ところで、一般の工務店は、昔ながらの流通形態の中で部材を調達している。すなわち、地域の建材店から仕入れるわけだが、その建材店は問屋(一次、二次)から仕入れている。ただ、コストダウンを考えている工務店はメーカーと直接交渉することで、流通経路が短くなっている。部材を購入するとき、そこに携わる人が多ければ多いほど、金額が上がっていくのは当然だ。中間マージンをカットすることで、ユニットバス、システムキッチン、アルミサッシなどの資材のほとんどを、定価の半額以下で仕入れることができる。近年では、材料の調達・加工段階で、小規模工務店同士が共同購入を行って単価を下げたり、プレカットを活用してユニット化を進める取り組みなども進んでいる。

「坪45万円」が、いつのまにか「坪80万円」に

 最後に、なぜ橋本社長が住宅産業に参入したのか、ふれておく。

「株式会社傳來工房」は、平安時代に京都の寺社仏閣に青銅製の装飾金物を納めていたのが組織体としての始まりだという。そのときの技術は、弘法大師が唐から持ち帰った鋳造技術だったそうだ。現在は全国の寺社仏閣や皇居、赤坂迎賓館をはじめ各地の有名建築物に製品を納めている。

 そんな会社が13年前、住宅事業に参入した。それは、橋本社長が18年ほど前に、テレビCMや宣伝などで有名な大手メーカーに住宅建築を発注して大失敗したことがきっかけだった。橋本社長は「あまりにも家づくりに関して無知で、住宅会社の営業マンの話だけを信用し、すべてを任せていた」と話す。

 正式な契約までその住宅会社のモデルルームに何度か足を運び、価格を聞いたとき「坪45万円からです」という返事だったが、その後いろいろなオプションを提示してきた。実際に契約するとき、契約書は「坪80万円」になっていた。

完成した家が、モデルルームとは違う……

 確かに床暖房を付けるなどしたものの、予備知識がなかったために、橋本社長は驚いた。完成した家を見ると、モデルルームとは雲泥の差、似ても似つかない代物だった。断熱材が入っていると聞いていたが、実際に住み始めてみると、冬は結露するし、夏は暑くて、2階では寝ていられない有様だった。

 橋本社長は悩んだ末、他の土地で建て直すことを決意。同じ失敗を繰り返さないよう住宅について猛勉強を始めた。そのためにアメリカにまで行ったという。そうして勉強で得た知識を、夢のかなう理想の家づくりに生かしたいと思うようになったのである。

「残念ながら、住宅産業はクレーム産業ともいわれます。テレビや雑誌には、欠陥住宅の話題や、せっかく建てたものの悔し涙を流している人たちの姿が頻繁に登場します。『私は大丈夫。ちゃんと考えて決めますから』とみなさんおっしゃるかもしれません。しかし、営業マンは営業のプロです。

 毎日熾烈な競争世界を生き抜いている百戦錬磨のプロ。サラリーマンですから、契約が取れなければ上司からイヤミを言われますし、クビになることもあります。そんなプロたちと素人が渡り合えるでしょうか? だから、家づくりでは建築を依頼する住宅会社をしっかり選んでほしいのです」

 長期的に見て住宅業界は、人口や世帯数の減少などで構造的に厳しい経営環境にある。今後はますます営業競争が激しくなるだけに、消費者側もしっかり考えなければならない時代に入ったといえる。
(文=横山渉/ジャーナリスト)

横山渉/フリージャーナリスト

横山渉/フリージャーナリスト

産経新聞社、日刊工業新聞社、複数の出版社を経て独立。企業取材を得意とし、経済誌を中心に執筆。取材テーマは、政治・経済、環境・エネルギー、健康・医療など。著書に「ニッポンの暴言」(三才ブックス)、「あなたもなれる!コンサルタント独立開業ガイド」(ぱる出版)ほか。

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