このリストラ策は各所でさまざまな議論を呼んでいるが、これらの議論では重要な視点が抜け落ちている感がある。それは「文部科学省中央教育審議会 高大接続特別部会」で提案されている、大学入試センター試験を廃止して導入する「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」が、教育業界に与える影響を考慮していないという点だ。この改革が実施されれば、教育業界は大きく様変わりする可能性がある。そう考えると、今回のリストラ策がベネッセにもたらす影響は、今後の教育業界にとっても、未来を探るリトマス試験紙となりそうだ。
●エリアベネッセへの人員シフトは成功しない?
ベネッセの看板事業が厳しい状況に立たされている。「進研ゼミ」「こどもちゃれんじ」などの通信講座の10月時点の国内会員数は、1年前より7.1%(約25万人)少ない325万人まで減少している。通信講座事業は、コンテンツ制作費と教材配送費が主な支出項目になるが、収入は会員数に正比例する。会員数の大幅な減少と新規会員の獲得ができなかったことで、看板事業の見直しを迫られたというのが足元の状況だ。
この苦境を打破するため、ダイレクトメール(DM)による新規会員獲得から、全国500カ所に設ける学習相談スペース「エリアベネッセ」での営業活動へのシフトを図っている。しかし、このエリアベネッセで進研ゼミの会員減少を補うことができるだろうか?
通信講座事業に携わっている社員の大半は、コンテンツ制作の人材であり、彼らがエリアベネッセの運営と営業活動に業務転換できるかどうかがカギとなるだろう。得てしてコンテンツ制作に携わる人材は、“いいもの”をつくり出すことに関しては高い能力を発揮し、モチベーションも高い。出版・放送業界でサービス残業も厭わない過酷な労働環境で就業している若手社員には、このようなモチベーションを持ち合わせているメンバーが多いのは、業界内の常識だ。
そのような人材が、エリアベネッセという営業拠点で営業マンとして、スーツを着てカウンターでの対応や進研ゼミのターゲットとなる子どもがいる家庭への訪問、さらにはチラシやビラの配布などの営業活動に従事するのは容易ではないと考えられる。
今回の人員シフトは700名ということで、まずは現在のマネージャークラスが第一陣のシフトメンバーとして500カ所のエリアベネッセの所長クラスで赴任すると見られているが、その後徐々に営業社員として異動を要請される制作スタッフが増えてくれば、元々そのような営業活動自体経験したことがない人材は、その辞令を嫌って他の教育産業へと転職することも予想される。今回の人員シフトは、このような人材流出のきっかけをつくり出すことになるのである。