その加藤氏の後任としてキリンHD社長に就いたのが三宅氏だった。海外M&A路線を継承し、11年8月、ブラジル2位のビール会社スキンカリオール社を2000億円で買収すると発表した。スキン社の株式は創業家の孫がそれぞれ経営するアレアドリ社(持ち株比率50.45%)とジャダンジル社(同49.55%)の2社が保有していた。キリンHDはアレドリア社と買収で合意したが、もう一方の株主であるジャダンジル社は「事前に相談がなかったのは、株主間契約に違反する」と異をとなえて法廷闘争に持ち込んだ。
01年11月、キリンHDがジャダンジル社の保有株をすべて買い取ることで決着したが、結局買収金額は3000億円に跳ね上がっており、スキン社買収はキリンHD凋落の端緒となった。1年後の12年11月、社名をブラジルキリンに変更。キリングループであることを内外にアピールするためだった。
●深刻なブラジルキリンの赤字
ブラジルキリンが知名度を高める絶好の好機が訪れた。昨年6月12日から7月13日にかけてブラジルで開催されたサッカーFIFAワールドカップ(W杯)である。
キリンHDはW杯日本代表の公式スポンサーになり、サッカーとビール好きのブラジル国民に「KIRIN ICHIBAN」ブランドを広めることを狙った。しかしその目論見は外れ、ブラジルキリンの14年度第3四半期決算の売上高は1274億円、営業利益はのれん等償却前の段階で6億円の赤字(償却後は70億円の赤字)に沈んだ。
現在、ブラジルキリンのブラジル国内でのシェアは約15%。「バドワイザー」ブランドを持ち約65%と圧倒的なシェアを誇る世界最大手アンハイザー・ブッシュ・インベブ社に太刀打ちできず、ダンピング販売を余儀なくされる事態に陥った。
ブラジルキリンの赤字はキリンHD本体の財務に深刻な影響を及ぼしつつある。買収でブランドやのれんといった無形固定資産が膨らんだからだ。のれん代とは買収価格と被買収企業の純資産の差額をいうが、13年12月末時点でブラジルキリンのバランスシートに計上されているこれらの無形資産は1408億円。キリンHDはこれを20年で均等償却する方針で、毎期83億円前後の償却負担が生じる。ブラジルキリンは償却額を上回る100億円程度の営業利益を稼がなければ、キリンHD本体の決算に利益面で貢献することはできないが、現状では償却前の段階ですら営業赤字である。
海外企業のM&Aに潜む落とし穴にのれん代がある。大型案件の場合、のれん代の計上額とその償却負担は巨額に上り、買収した企業の業績の足を引っ張る。キリンHDはブラジルキリンだけでなく複数の海外企業を買収してきた。この結果、のれんやブランドの無形固定資産は14年9月末時点で8587億円に達している。これを毎期均等償却していくのだからかなりの重荷だ。営業減益の原因にもなる。