首都圏や九州で地方銀行の統合・再編構想が相次いで明らかになり、東海3県の地銀にも衝撃が広がった。各行首脳は将来的な再編の必要性は認めつつも、再編には慎重だ。九州の各地銀トップの積極的な発言とは一線を画している。それは、トヨタ自動車を頂点とする中部の経済力と、人口減少が進む九州経済の構造的な違いを反映したものともいえる。2014年11月15日付中日新聞記事『地銀再編 中部では?』は、名古屋証券取引所で決算を発表した東海3県の地銀8行の頭取たちの、再編に対するコメントを掲載している。
・中京銀行(名古屋市)「再編は理にかなっている」
・十六銀行(岐阜県岐阜市)「常に頭に入れている」
・三重銀行(三重県四日市市)「選択肢となる可能性はある」
・百五銀行(三重県津市)「将来的に可能性はある」
・第三銀行(三重県松阪市)「当然一つの選択肢だ」
・大垣共立銀行(岐阜県大垣市)「単独で残れるように最善尽くす」
・愛知銀行(名古屋市)「人口減は差し迫っていない」
・名古屋銀行(名古屋市)「地域が成長しており(経営統合は)必要ない」
東海地区の地銀頭取にとって、再編は差し迫った案件とはなっていないのか。少なくとも自身の在任期間中に経営統合は起こらない、いや起こってほしくないと考えているのかもしれない。
昨年9月、金融庁の細溝清史長官は各行の頭取を名古屋市内に集め、「今のビジネスモデルではやっていけなくなる。できる手を打ってほしい」とゲキを飛ばした。しかし、反応はイマイチだったようだ。大垣共立銀行の土屋嶢(たかし)頭取の「金融庁としては再編が好ましいのだろうが、すぐに『統合しましょう』とはならない」という発言が、頭取たちの本音だろう。12年に旧岐阜銀行が十六銀行に吸収合併されて以降、東海地区での地銀再編をめぐる動きは止まった。十六銀は「東海銀行のように存在感のある地銀になりたい」として岐阜銀を買収したが、その後の動きは鈍い。適当なパートナーが見つからないからだ。金融アナリストは「愛知県では人口も経済規模も成長を続けており、九州の肥後銀行、鹿児島銀行とは置かれている経営環境がまったく違う」と分析する。
東海地方で広がる、住友と三菱への不信
東海地方は元来、旧東海銀行(現三菱東京UFJ銀行)の牙城だった。東海銀は強力な営業力を誇り、大きな存在感を示していた。トヨタが東海銀を支えてきたといっていい。トヨタの協力企業は東海銀から融資を受け、トヨタは東海銀と旧三井銀行(現三井住友銀行)の2行を優遇し、住友銀行とは絶対に取引をしなかった。
これには理由がある。戦後の1950年、ドッジ・ライン不況でトヨタが倒産寸前に追い込まれたとき、三井銀(当時は帝国銀行)、東海銀を中心とする銀行団が緊急融資をした。当時、三井・東海と共に主力銀行の1つだった住友銀行(当時は大阪銀行)は、「機屋に貸せても、鍛冶屋には貸せない」と、にべなくトヨタの緊急融資の要請を断り、さらに貸出金の回収に走り、トヨタとの取引を打ち切った。この交渉での心労がたたり、創業者の豊田喜一郎氏は1952年3月に急逝した。
トヨタの歴代社長は、この仕打ちを決して忘れなかった。65年、トヨタは経営危機に瀕していたプリンス自動車の救済を、プリンスのメインバンクである住友銀の堀田庄三頭取から懇願された。トヨタの石田退三会長は「鍛冶屋の私どもでは不具合でしょうから」と堀田頭取の要請を拒絶した。
トヨタと住友銀との取引が再開するのは、三井銀の後身のさくら銀行と住友銀が合併して三井住友銀行が発足してからだ。ただし、取引窓口は旧三井銀出身者に限っていた。
三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)は、トヨタの倒産危機の時に再建案に消極的だったと伝えられている。最終的に再建案に同調するが、これがたたった。三菱銀行のトヨタとの取引は、海外決済などに限られていた時期が続いた。三菱銀行がトヨタと本格的に取引を始めるのは、旧三和銀行、旧東京三菱銀行との再編を経て、トヨタを主力取引先とする旧東海銀行が三菱東京UFJ銀行になってからだ。東海銀行は三和銀行と合併してUFJ銀行となり、東京三菱銀行と合併して三菱東京UFJ銀行が誕生した。
しかし、三菱や住友という旧財閥のブランドが、東海地区の企業に受け入れられたとは言い難い。「三菱や住友は、いざとなったら頼りにならない」との評価が広がり、三井住友銀行や三菱東京UFJ銀行が苦戦する原因となっている。
06年には東海銀行の系列信販であったセントラルファイナンスが三菱東京UFJ銀行グループから離脱し、三井住友フィナンシャルグループに移るという事件が起きた。名古屋の経済界は、この移籍を歓迎し、三菱に対する不信感の根深さを見せ付けた。東海地区では、トヨタの出資を得て、地元に密着した第二東海銀行を創設しようという動きがあった。トヨタに支えられ東海地区の経済が好調なことから、この動きは水面下に没しているが、景気が悪くなり、三菱東京UFJ銀行の貸し渋りが強まったりしたら、第二東海銀行設立の動きが再燃する可能性もある。
東海地方の金融再編の要はトヨタ
東海地方の金融再編は、トヨタにかかっているといっても過言ではない。域内で最大の岡崎信用金庫(愛知県岡崎市)を普通銀行に転換させて、第2地銀の名古屋銀行か愛知銀行と合併させて、地域の中核銀行として第二東海銀行を創設する案が一部メディアで報じられたことがある。
名古屋銀行は第2地銀の雄であり、加藤千麿会長は創業者の一族。第2地銀のリーダーでもあり、このシナリオには乗らないだろう。岡崎信金の預金量は2.7兆円、愛知銀行は2.6兆円。合計すれば預金量は名古屋銀行(約3兆円)を超える約5兆円の上位地銀が誕生することになるが、この案が日の目を見る可能性は低いとみられている。
(文=編集部)