今の日本経済において、GDPの7割、雇用の7割をサービス業が占めている。よって、今後の成長戦略としては、そのサービス業の生産性を上げ、雇用を拡大することが、経済成長に最も効果的である。企業の成長戦略としても、最も巨大で成長余地のあるサービス業か、もしくはサービス業に関係した製造業・インターネット事業によって収益を拡大するのが当然の策となる。
ところが、企業の経営戦略や国の経済政策に関わる人たちが、あまりに高度成長期の製造業とその製品販売事業の発想にとらわれた策を、サービス業中心の経済に適用するものだから、かえって成長に害をなしてしまっている。昨今の国内外の経営学者のデータ分析によっても(『サービス産業の生産性分析』<森川正之/日本評論社>等)、サービス業の生産性を向上させる方法は、従来の製造業における施策と大きく異なると実証されている。現在のサービス業の環境では、米経営学者マイケル・ポーターの5 forces modelで戦略構築しても機能しないという研究者もいるくらいだ(『サービスイノベーション』<産業能率大学総合研究所/産業能率大学出版部>)。
従って、経営者、コンサルタント、政策担当者などが、口を開けばどの件に対しても「選択と集中」「IT設備投資による効率化」「内部統制体制の整備」などという処方箋を提示しているのは、7割は間違っており、試験でいうと30点の救いがたい落第点だといえよう。
●サービス業の本質
それでは、製造業と異なるサービス業の本質とはなんだろうか。それは、生産と消費の同時性である。製造業のように中国の工場で大量生産して、量販店に運び込んで大量に売ることができない。ヘアサロンでは、美容師が個別に客の髪を切ることによって生産ができ、同じ場所(空間的同時性)、同じ時間(時間的同時性)に消費される。後述するように、この同時性ゆえに、範囲の経済性(多角化の利益)、密度の経済性、需要変動の平準化によって、サービス業は生産性を向上できる。
また、サービスの生産に必要な主要な資源は、一に人材、二に店舗(生産と消費を行う場)である。それは、工場の設備機械が主要な生産のための資源である製造業と大きく異なり、収益構造にも大きな違いが出てくる。