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小林敬幸「ビジネスのホント」

選択と集中、IT投資…日本経済の7割を占めるサービス業の成長を妨げる製造業的発想

文=小林敬幸/『ビジネスをつくる仕事』著者
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●「1商品全国シェアNo.1」より「地域No.1の総合サービス」 - 密度の経済

 サービス業では、全国で特定のサービス・商品のシェアアップを目指すよりも、特定地域で多様なサービスを提供するほうが生産性の向上につながる。人口密度の高い地域内で、複数の事業所で多様なサービスを提供するのがよい。空間的同時性のために人やノウハウを融通しやすい同じ地域で実店舗を増やし、規模を拡大するのが効率的だからだ。実際に多くの地方において地場の有力企業が、総合サービス企業として地域内で断トツの存在感をもって、持続的な高収益を生み出している。

●IT設備投資よりネット・マーケティングの利用 - 需要(繁閑)の平準化

 企業においてIT投資が必要だとか、成長政策としての設備投資の減税などがいわれる。しかし、サービス業におけるIT投資は、生産性向上に貢献していない。当たり前だが、新しい経理システムを入れても、売り上げ・利益がすぐには増えないのだ。

 ところで、前述のようにサービス業は固定費が高いので、客の繁閑(需要)の時間的平準化ができるかどうかが生産性に直結する。レストランは、お客が最大数来る時に備えて食材・座席・スタッフなどを用意して固定費を負担しているので、季節や曜日によって人数が大きく変動すると、無駄が多くて生産性が悪化する。この点については、特に、インターネット・マーケティングを上手に活用し、集客や仕事の繁閑の平準化ができると生産性は向上する。フラッシュ・マーケティングの「グル―ポン」創業者は、そもそも空席を埋めるニーズに応えようとしたのだ。「ホットペッパービューティ」(リクルート)は、予約手続きを入れてヘアサロンでの繁閑の平準化を提供し、急成長している。

 国の政策としては、サービス業の需要の時間的平準化をするために、フレックス制の導入の促進などをしてもいいだろう。また、子供の夏休みがある7・8月だけ、電力需要の平準化のためにも、業界ごとに土日以外の週休曜日の設定をしてもいいだろう。こうして需要の平準化ができると、サービス業は正規雇用の比率を上げやすく、雇用の質を上げることにもつながる。

●経営の保護よりも新陳代謝促進

 サービス業では生産と消費が同時に行われるので、製造業のような出荷前の最終品質検査がやりにくい。中国の電子製品工場では、生産ラインとは独立した検査担当の労働者が不良品発見率でボーナスを決められ、ぎしぎしと目を血走らせてチェックしている。このように製造業は、物理的インセンティブをつけた内部統制システムを整備して品質管理を行いやすい。

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

1962年生まれ。1986年東京大学法学部卒業後、2016年までの30年間、三井物産株式会社に勤務。「お台場の観覧車」、ライフネット生命保険の起業、リクルート社との資本業務提携などを担当。著書に『ビジネスをつくる仕事』(講談社現代新書)、『自分の頭で判断する技術』(角川書店)など。現在、日系大手メーカーに勤務しIoT領域における新規事業を担当。

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