一般に製造業では、固定費が高いのは設備投資が大きいビジネスである。そして、固定費の高い製造業では、例えば半導体の製造のように売り上げが損益分岐点より少ないと大赤字だが、それを超えると飛躍的に収益が伸びる。しかし、サービス業は、設備投資が少ないのに人件費と店舗の家賃という固定費の比率が高い。また、需要に応じて人と店舗を急拡大できないので、損益分岐点を超えてからも生産能力の拡大テンポが遅く、売り上げの上限がすぐに来て飛躍的に収益が伸びない。「設備投資が少ない。にもかかわらず固定費比率が高い。にもかかわらず、利益上限がすぐにくる」。製造業に慣れた頭には、混乱してくらくらしてくる収益構造なのだ。
また、サービス業は、本質的に時間消費そのものが価値であり、製造業における時間短縮と省力化などによる効率化は難しい。サービスの付加価値の源泉は娯楽的要素だが、本質的に「娯楽は、効率と矛盾する」(評論家・山崎正和)。効率を求めて推理小説の最後のページを先に読んだところで、娯楽・サービスの価値は半減する。マッサージにおいて、もむ力を2倍にして半分の時間で済まされたら、客は怒って半分の値段も払わない。
これらのサービス業の本質を踏まえ、以下では従来の製造業的発想に基づいた施策とまったく異なるサービス業の生産性向上策を説明してみよう。
●「選択と集中」より多角化 ― 範囲の経済
サービス業では、多角化が生産性を高め、「選択と集中」戦略は生産性を低くする。特定のサービス事業のみに依存している事業所の生産性は低く、逆にあるサービス事業以外の売り上げシェアが大きい事業所の生産性は高い(森川、前掲書)。集客効果、設備、人材がシナジー効果を出しながら効率的に使われるからだ。
コンサルタントなどがよく描くように、製品ジャンル別成長率を調べて、成長率の高い分野に集中的に資源を投入して参入するという「商品ターゲティング戦略」は成功しない。サービス業では、業界間格差よりも企業間格差のほうが大きいからだ。この製品・サービスを扱っていればどの会社も大儲けというジャンルはなく、どのジャンルも上位の経営力のある1~2社だけが儲かっている。同様に、かつて通産省が行った有望な特定産業を育成する産業政策(産業ターゲティング政策)はほとんど機能しない。