●国内シェア半減
資生堂の足元の業績は厳しい。15年3月期の連結売上高は、前年同期比1.0%増の7700億円を見込む。海外売上高は4030億円と4.7%増えるが、国内は3670億円と2.7%減。消費増税前の駆け込み需要があった14年3月期を除いて、07年3月期以降は減収が続く。1980年代に3割近くあった国内シェアは半減した。
化粧品業界の勢力図は大きく変わってきた。ドラッグストアやインターネット通販が主戦場になっているのに、全国に専門店を張り巡らせてきた資生堂は、変化に敏速に対応できなかった。結果として若者層からは「おばさんブランド」と揶揄する声も聞こえる事態となった。
15年3月期の営業利益は、前期比49.6%減の250億円の見通し。中国事業の失速で在庫が膨れ上がり、これを圧縮するために在庫引当金130億円を計上する。中国事業不振の原因も国内と共通している。市場の変化についていけない。富裕層をターゲットにしてきた資生堂は、成長著しい中間層を取り込めていない。国内、海外とも、すべてはマーケティングの失敗に起因すると指摘されるゆえんである。
魚谷氏がそれを打開する武器としたのが、これまで得意としてきたマーケティング戦略だ。ブランド力の再構築により、21年3月期の売上高は15年3月期より3割多い1兆円、営業利益は4倍増の1000億円の目標を掲げる。
●経営すべてに「顧客の視点を入れる」
昨年4月1日付で社長に就いた魚谷氏は、化粧品メーカーの老舗として140年以上の歴史を持つ資生堂の再生を託された。日本コカ・コーラのトップとして、缶コーヒー「ジョージア」や10種類の茶葉をブレンドした「爽健美茶」を大ヒットさせた「マーケティングのプロ」として高く評価されている。その魚谷氏を前田新造前会長兼社長(現相談役)が、長期低迷が続く資生堂を再生するためにスカウトした。魚谷氏のマーケティング戦略は、広告や市場調査に限ったものではなく、商品開発から流通まで経営すべてに「顧客の視点を入れる」ものだ。
資生堂がブランド再生のターゲットにしているのが、20~30歳代の若い世代だ。魚谷氏は前出会見で「資生堂の顧客層は年齢層が高い。シニアをないがしろにするわけではないが、将来を考えると若い世代にアプローチしなければならない」と語っている。
魚谷氏は、自著『こころを動かすマーケティング』(ダイヤモンド社)で次のように書いている。