●思い起こされる、創業者・折口雅博氏の栄華と買収劇
グッドウィル・グループの創業者である折口雅博氏は、規制緩和の追い風に乗って人材派遣と介護ビジネスで旋風を巻き起こした。「六本木ヒルズ族」の兄貴分といわれた彼の金満生活は有名だった。田園調布に豪邸を構え、自家用飛行機を持ち、高級外車を何台も乗り回し、女性関係も派手な発展家といえる。
ビジネスでは、日雇いや軽作業派遣を中心とした人材派遣の「グッドウィル」(09年解散)、訪問介護などの介護ビジネスを担っていた「コムスン」(09年解散)、人材派遣最大手の「クリスタル」(後のラディアホールディングス・プレミア、10年特別清算)の3社を中心とする企業グループを形成していた。
しかし、コムスンの介護報酬不正請求やグッドウィルの違法派遣などの不祥事をきっかけに両社は廃業した。結局、グッドウィル・グループは解体され、折口氏は09年に破産宣告を受けた。
折口氏が事件史に名を刻むことになったのは、06年10月の人材派遣の最大手クリスタルグループの買収だろう。クリスタルの売上高はグッドウィルの3倍。「小が大を呑む」典型で、“下克上買収”と騒がれた。
折口氏は、クリスタルを手に入れるために奇策を用意、2つの投資ファンドを介する複雑な手法を使った。これが、闇の紳士たちの跋扈を招くことになる。
クリスタル株を買収するコリンシアンファンドに、グッドウィルのダミーの人材サービスファンドが出資。買収後、コリンシアンファンドから脱退した人材サービスファンドは、出資分に見合うクリスタル株式の分配を受けた。こうした便法で、グッドウィルは883億円でクリスタル株式を手に入れたのだ。
クリスタルのオーナーは、同業他社に売却しないことを絶対的な条件としていたため、真の買収者がグッドウィルとわかって激怒した。
コリンシアンファンドには「外部投資家」が出資しており、出資分を差し引いて383億円の利益を得た。巷では「外部投資家」が誰かを究明しようとの動きが活発化して騒然となり、グッドウィルのトリッキーな買収劇に東京国税局が切り込んだ。この頃から、消えた383億円の金の流れが漏れてくるようになり、国税はコリンシアンファンドの社長らを、クリスタル買収の仲介で得た金を過少申告していたとして脱税容疑で摘発。しかし、どこにその金が流れたのかはわかっていない。
まさに、M&Aの闇の世界が垣間見えた事件だったといえる。そして、悪名を残したまま、折口氏は経済界の表舞台から消えた。
(文=編集部)