●「高すぎる」買収
大塚HDといえば、市販用レトルトカレー「ボンカレー」やスポーツ飲料の先駆けとなった「ポカリスエット」、栄養補助食品「カロリーメイト」など食品メーカーのイメージが強いが、実態は製薬会社だ。
大塚HDの14年12月期の連結決算における医療関連事業の売上高は8835億円で、全社売上高1兆2242億円の72%を占める。営業利益は2047億円であり、全社の営業利益1965億円を上回る。他事業の赤字を医療関連事業の収益で補っているという構図なのだ。つまり、ドル箱だったエビリファイの特許切れは、同社の屋台骨を揺るがしかねない深刻な問題なのである。
特許切れとジェネリック医薬品の参入による売り上げ減にどう対処するのかが、大塚HDの最大の経営課題である。
その1つの解が、米バイオベンチャーのアバニアファーマシューティカルズの買収だった。大塚アメリカの完全子会社を通じて米ナスダックに上場しているアバニアの株式公開買い付け(TOB)を実施し、15年1月13日に買収手続きは完了。完全子会社とした。買収額は35億ドル(約4200億円)。大塚HDにとって過去最大の買収案件となった。
エビリファイを育てた大塚製薬元社長の岩本太郎氏は、特許切れの衝撃を熟知していた。特許切れ後の成長を支える治療薬を獲得するために海外を飛び回り、製薬ベンチャー企業を探した。成果の第1弾が、13年に900億円で買収した米創薬ベンチャーのアステックスファーマシューティカルズ。第2弾がアバニアだった。
大塚HDの樋口達夫社長兼最高経営責任者(CEO)は買収発表の会見で「アバニアの認知症の薬は中長期的な成長に重要だ」と説明した。アバニアは11年、人前で突然泣きだすなど自分の感情がコントロールできなくなる症状を治療する世界初の薬を発売するなど、神経に関わる病気の治療薬を得意としている。
加えてアバニアは、認知症関連の有力な新薬候補を持つ。大塚HDが最も欲しがったのは、開発中のアルツハイマー型認知症の行動障害の治療薬だ。同症状を抑える薬は、最終段階の臨床試験(治験)に向けて準備が進められているという。
世界に3000万人の患者がいるアルツハイマー病関連の新薬は、新たなブロックバスター(年間1000億円以上を売り上げる大型新薬)となる可能性を秘めている。特許が切れるエビリファイに代わって、アルツハイマー型認知症の新薬が中長期的に収益をもたらしてくれると期待して、アバニア買収に踏み切った。
●のしかかる、巨額ののれん代
アバニアの株価は、14年の年初から上昇基調だった。アルツハイマー型認知症の症状を抑える新薬候補の臨床試験結果が良好と発表され、昨秋に急騰。株価は年初から5倍になっていた。大塚HDはアバニア株式を1株17ドルで買い付けた。直近の1カ月の平均株価に24%のプレミアムをつけた。アバニアが急騰した後に24%のプレミアムをつけたのだから、4200億円という買収金額に対して、「高すぎる」と証券市場は冷ややかな反応を示した。アバニアが収益に貢献するのは早くて19年以降といわれており、このTOBにはスピード感がないと市場から判断された。