みそ汁の製法を例に紹介しよう。
(1)大鍋でみそ汁をつくる。
(2)型枠に入れ、摂氏約マイナス30度の冷凍庫で凍らせる。
(3)真空凍結乾燥機で24時間以上かけて氷になった水分を昇華させると、水分がなくなる。
(4)水分の部分が空洞になる。
「熱をあまり加えずに乾燥させることで、味や香り、食感、そして何よりも栄養価が損なわれにくいのが特徴であり、魅力です」(広報担当者)
乾燥が終わったみそ汁は、密封して個別包装することで、風味とうま味を閉じ込める。異物が混入していないか、包装の破れはないか、賞味期限に誤りはないかなど、製品を細かくチェックする一方、完成品については、日々、舌の感覚を磨いているスタッフが目、鼻、舌で検査を行う。こうして基準をクリアしたものが商品として出荷されている。
エベレスト登頂隊の食糧にも採用
フリーズドライ商品はラインナップが増え、利用者の幅も確実に広がりを見せている。
「需要の約9割は、家庭での食事の際に召し上がっていただいています。そのほか、アウトドアや備蓄用の食料として裾野が広がっています。栄養価が損なわれにくく、軽量で持ち運びに便利なことから、海外の高山にチャレンジする日本の登山家のみなさまに絶大な支持を得ています。標高の高い山では気圧の関係で熱湯を用意することが難しいため、復元性の良い商品でないと食べることができないのです」(同)
軽量で常温保存が可能、調理が手軽、長期保存にも向くといった特性から、天野実業の商品は航空機の機内食、南極観測隊、北極点到達計画隊、エベレスト登山隊の食糧に採用された実績がある。
さらに、今後の需要で注目されるのが、防災拠点や介護現場である。
「一般のフリーズドライ商品の賞味期限は製造後1年ですが、アマノフーズには製造後3年6カ月も品質を保証するみそ汁や豚汁があります。11年の東日本大震災以降、災害時の保存食料の問題が大きくクローズアップされました。企業や学校、官公庁など、防災拠点でのニーズは、かなり大きくなっています。それだけに賞味期限の長い商品をどれだけ増やせるかがポイントになるでしょう
超高齢化社会が進行するなかで、独居老人の食事は大きなテーマとなっており、コンビニやスーパーが宅配サービスに力を入れているのも、そうした需要をにらんでのことです。卓上ポットでお湯を用意すれば、いろいろな料理が楽しめるフリーズドライ商品は高齢者の必須のアイテムとなるでしょう。味付けやバリエーション、徳用セットなどを工夫すれば大きな需要が見込めます」(経済ジャーナリスト)
アジア市場も未開拓だ。中国をはじめアジアからの訪日観光客は全国的に増え続けている。大量の商品を買い占める彼らの買い物のスタイルは“爆買い”と呼ばれ、話題になっているが、購入品は電化製品、スマホ、高級時計、化粧品から日用品、食料品まで幅広い。
今後、訪日観光客がフリーズドライ商品の手軽さと質の高さに気がつけば、人気が高まる可能性がある。観光客のニーズにとどまらず、人口増が続き共働き世帯の多いアジアの大都市圏での需要増が期待できる。天野実業は10年、アサヒビールの完全子会社となったが、まずは認知度を上げることが喫緊の課題だろう。
一袋20グラム前後のフリーズドライ商品が、いつの日か世界を席巻する大ヒット商品となるかもしれない。
(文=編集部)