しかし、近いうちに、この風物詩的な情景がなくなるかもしれない。そのきっかけをつくろうとしているのが、日立製作所である。日本有数の巨大企業である日立は先ごろ、短信をはじめとする資料投函を中止すると東証の記者クラブに申し入れたのである。
理由はコストの削減だ。決算短信は補足資料も入れると紙のページ数が膨大なものとなる上、それを運ぶ人員の費用もばかにはならない。理由はもっともだが、情報開示姿勢として問題ではないかとも思われるが、実は法的にはまったく問題がないのである。
企業の情報開示は、東証の適時開示情報閲覧サービス(TDnet)で開示した段階で、投資家に周知したと見なされるためである。TDnetは、東証のホームページ上で誰でも簡単に閲覧できる開示サービス。上場している企業サイドは東証のシステムに接続することで、開示内容や開示時刻を設定することができる仕組みだ。
日立はこのTDnetで情報開示を完結させ、記者クラブ所属の記者には個別でメールをする方法で関係をつなぐ方針だという。
東証記者クラブが形骸化か
東証での決算記者会見数は年々減少傾向にある。トヨタ自動車やソニーといった世界的な企業にとっては、東証は会場が狭すぎることもあり、自社の施設や自前で会見場を確保して、記者会見やアナリスト向けの説明会を行うケースが一般的だ。東証で決算会見というのは、大企業にとってすでに過去のものになりつつある。自社に批判的な記者も、自前の会見場なら入場を拒否できるという利点も見逃せない。
しかし、決算短信をはじめとした発表資料については、ほぼ例外なく資料投函を継続していた。地方の企業でも、コストをかけて資料投函に来る。
日立が今回慣例から外れることで、追随する企業が増加することは確実視される。記者クラブ制度は日本のマスコミの既得権益としてバッシングの対象になってきた歴史もある。しかし、決算会見の外部化で威信は低下傾向にあった。
今回の資料投函廃止の動きが広がるようなら、東証の記者クラブの形骸化が進むことも想定される。このため、マスコミ関係者の間では、この件について箝口令が敷かれているもようだ。
(文=編集部)