日銀はインフレターゲット(物価上昇目標)達成への表向きの強気の姿勢と裏腹に、自己資本に厚みを持たせており、「国民を無視して、大規模緩和策からの脱出を着々と進めているのでは」と訝しがる声も出始めたのである。
当期剰余金が前年度比2847億円増の1兆90億円。その25%にあたる約2500億円を法定準備金に積み立てた。日銀法は剰余金の5%を法定準備金として自己資本に積み立てるよう定めているが、13年度に20%に引き上げており、今回さらに5%高めた格好だ。これが何を意味するのか。
「QQEのような非伝統的な金融政策は、従来よりも収益の振れが大きくなりやすい」(日銀筋)
そのため、14年度決算で財務相の認可を受けて法定準備金の積立額を引き上げたことになった。大規模緩和が今後引き締めに入り、出口戦略に向かえば、収益の振幅が大きくなる。損失に備えて自己資本の増強に取り組んだという筋書きだ。
法定準備金2522億円と外国為替等取引損失引当金3800億円を積み立てたことで、14年度末の自己資本比率は8.2%となり、前年度末の7.74%から上昇した。日銀の自己資本比率が財務の健全性の目安としている8%を上回るのは、2001年度以来となる。
中央銀行が自己資本の厚みをどの程度持たせるかは議論が分かれるが、問題は日銀が金融政策運営では国民に「出口論は時期尚早」(黒田東彦総裁)と語り、市場に巨額マネーを供給し続けながらも、自らはこっそりと出口の準備をしているところだろう。
揺らぐ2%物価上昇目標への自信
大手メディアではあまり報じられていないが、昨年の段階で日銀の欺瞞を追及する声もあった。なかでも共産党の大門実紀史参議院議員による昨秋の財政金融委員会での発言は注目を浴びた。
「自分たちだけ(出口の)対策を立てて、国民に一向に何も説明責任を果たさないのは、ちょっと違うんじゃないかなと思うわけです。多額の積み立てをされた理由はなんですか」
もちろん、出口にいつ突入するかは当事者にもわからない。ただ、「デフレと闘う」ファイティングポーズをとり、2度も大胆な緩和にまで踏み切りながら、自らが秘かにリスクヘッジを掛けている姿には滑稽さがみえ、狡猾ささえ感じ取る向きもあろう。「出口に備えたところで、金融政策が失敗すれば、現在の積立額などまったく意味をなさない」(エコノミスト)という指摘も多い。
出口についての説明をはぐらかし、さらなる追加緩和すらにおわせる裏で、密かに出口に備えるという振る舞いは、日銀の政策の信頼性を損なわせかねない。2%物価上昇の目標達成の自信が揺らいでいるのは確かだろう。
(文=黒羽米雄/金融ジャーナリスト)