とはいえ、自信が持てないのだろう。「もちろん、それがすべてではないと思っておりますから、しっかりと市場の動向を注視しながら、適切な経済財政運営に努めていきたいと思っております」と補足することも忘れなかった。
今のところ、短期の予測では概して保守的で、政府の見方を追認することが多い民間のシンクタンクも、7~9月期GDPの回復に期待をみせている。8月18日付の朝刊によると、日本経済新聞が民間シンクタンク10社の予測を集計したところ、7~9月期の実質GDPの見通しは平均で年率1.9%増。猛暑で飲料などの季節商品の売れ行きが伸びて、個人消費が持ち直すのが原動力という。筆者の取材でも、日本航空(JAL)、全日本空輸(ANA)の航空2社が、初めて実現する9月の大型連休(シルバーウィーク)まで予約が順調で、個人消費に明るい材料があるのは事実といってよいだろう。
ただ、猛暑や連休の旅行需要は一過性のものだ。しかも、各シンクタンクは揃って、このところ世界同時株安の火元になっている中国経済の下振れリスクが現実化しないことを、7~9月の実質GDP回復の条件としている。それゆえ、実際のところは、予断を許さない状況と見たほうがよいだろう。
潜在成長率の下落傾向
また、四半期GDPのような3カ月単位の短期の浮き沈みに一喜一憂するよりも、懸念すべき問題があることも見逃せない。それは、歯止めがかからない潜在成長率の下落傾向の問題である。
日本の成長率は、1980年代は年率4~5%を維持していたが、90年代半ばに1%前後まで下がり、さらに11年以降は0.7%程度に下がってしまった。ちょっとした国内個人消費の落ち込みや輸出減少によって、四半期GDPが簡単にマイナスに転落してしまうのも、実は、この潜在成長率が低水準に落ち込んでしまったことが根本的な原因だ。
老舗のシンクタンクである日本経済研究センターは8月20日、そういった観点から憂うべき中期経済予測(対象期間:15~30年度)を公表した。それによると、今後15年間にわたって日本の(潜在)成長力は「徐々に低下する」。その理由は、「人口減少・高齢化の進展と投資効率・生産性の低迷」だ。特に「東京五輪が開催される2020年度以降、成長力は低下し、20年代後半は恒常的にマイナスに陥る」という。
そして、「アベノミクスの第3の矢として期待される成長力の押し上げ策なしでは、財政破綻の危機に直面するか、生活水準の低下を甘受するか、苦渋の選択を突きつけられる恐れも強い」と結論づけている。
このところ、終戦記念日を挟んで安倍首相の戦後70周年談話や安全保障法制をめぐる参議院での審議ばかりが関心を集め、経済やアベノミクスの話題はすっかり影が薄くなってしまった。
しかし、4~6月期の四半期GDPの3四半期ぶりのマイナス転落は、その根底にある潜在成長力の低下に警鐘を鳴らす指標にほかならない。経済の立て直しは、これ以上怠ることのできない大きな課題である。
(文=町田徹/経済ジャーナリスト)