いまさらゴルフ会員権を勧める東洋経済のなぜ バブル感覚の投資解説は効果薄い!?
良識の雑誌であったハズの東洋経済よお前もか、といった驚きが隠せないのが、「週刊東洋経済 2/23号」の大特集の『銀行預金だけで大丈夫? 投資の新常識』だ。
円安・株高の安倍バブル、アベノミクス相場が市場を一変させている。民主党の野田首相が解散表明をした昨年11月14日から、12月の安倍政権誕生、そして現在にいたるまで、相場が沸いている。東京株式市場の代表的な指標である日経平均株価は解散表明をした時点では8661円だったが、その後、1万1498円をつけた(2月6日)。上昇率はなんと30%を超えているのだ(32.7%)。今後、インフレが起きるとなると、資産が目減りするリスクもはらむ。デフレ時代の常識のリセットが必要になってくる。投資戦略を見つめ直そうという特集だ。
今や、出版業界ではアベノミクスバブルのように、マネー投資情報誌は売り切れ寸前、投資入門書も売れ行き好調。出版各社はいまこそ投資をと煽りに煽っている。
ライバル誌「ダイヤモンド」誌はすでに3号前の「2013/2/2号」で『円安に乗る! 株・投信 外貨投資』という特集を組んでいる。長らく続いた円高トレンドが大きく転換し、円安の流れが定着しつつある。この円安の流れに乗り遅れないためには、リスクの低さを重視するなら、外貨ベースで元本保証のある外貨定期預金か安全性の高い債券投資の一種である外貨建てMMFをということだ(ただし、外貨定期預金は換金時のタイミングというリスクが大きい)。
また、リターンの高さを重視するなら、投資信託も選択肢に入ってくるが、投資信託は信託報酬などコストも高いので、投資信託の一種である信託報酬の低いETF(上場投資信託)を。さらに、コストという面を見れば、FX(外国為替証拠金取引)がもっとも優秀だが、短期の為替相場では海外投機勢の思惑などで、しばしば予想外の動きをするため、当て続けるのは簡単ではない。トータルの収支で勝てるのは投資家の2割ともいわれるほどだと、円安時代に応じた冷静な投資商品を特集していた。
出版界のアベノミクスバブルに乗り遅れないように東洋経済も特集を組んだということだろうか。
『Part1 どこまで進む円安・株高 アベノミクス相場の持久力を探る』では、欧州の債務問題懸念がひとまず後退。中国の景気も底打ち、米国も財政の崖回避で世界の投資マネーはリスク資産に向かい始めた。日本の割安銘柄も、安倍政権への政権交代への期待もあって、魅力的な投資先と移り、日本国内に投資マネーが流入してきたという解説が書かれている。
今後については日経平均は「1万1000円前後が適正水準」(エコノミスト・中原圭介)、「1万3000円突破の確度高い」(熊谷亮丸・大和総研経済調査部チーフエコノミスト)、為替については「1ドル90円台前半が適正か」(唐鎌大輔・みずほコーポレート銀行マーケットエコノミスト)といった見通しを紹介している。
『Part2 脱デフレで変わる戦略 現金優位の時代が終わる』では、物価上昇局面で有利となりそうな投資商品を紹介している。株式関連では日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)に連動するETFが王道、また、不動産株やREIT(不動産投資)をいくつか購入することで換金性とリスク分散ができる。金やプラチナもインフレ時代には有利になるとする。
ここまでセオリー通りの内容なのだが、気になる記述がチラホラし始める。たとえば、バブル後最安値水準のゴルフ会員権を今更ながら取り上げているのだ。
「不動産関連商品ではゴルフ会員権も定番。株式より市場が小さいため、わずかな需給の変化が価格に反映するのは、バブル期の急騰で実証済みだ。売却時の税務処理が面倒 になる場合もあるが、不動産よりも換金に要する時間が短い利点がある」などと煽る。しかし、ゴルフ会員権は需要が激減しているのが現状だ。80年代バブル期と異なり、ゴルフ人口が減少しているといった現実を見ずに、ゴルフ会員権を勧めているのはいかがなものか。「ゴルフ会員権が定番」というあたり、これからの投資戦略というよりも80年代バブルの回顧録のような記事だ。
さらに『Part3 いま何を買うべきか インフレ下の株式市場はどう動く?』の『80年代上昇相場を振り返り 「アベノミクス相場」に挑む』という記事では80年代バブルの分析をして、これからの投資を考えるという企画になっているが、当時は「利下げ、円高、原油安」という背景から長期上昇局面を迎えている。現在は「円安」であり、状況が大きく異なっている。少子高齢化や金融自由化というその後の情勢をまったく加味しておらず、どこまで有用なのかがわからない記事になっている。
記事では「野田佳彦前首相が衆議院解散について発言した昨年11月からの株価の立ち上がりは、86年1月以降の第1期上昇相場と似ていなくもない」などと苦しい分析をしている強引な4ページになっている。
昨年11月からの株価の立ち上がりに関しては「ダイヤモンド 2/2号」のニュース記事ページ『株式市場 透視眼鏡 アベノミクスを外国人は高評価 1万2000円は年内の通過点』の方が断然するどい指摘だ。記事によれば、海外投資家の日本株買い越し額は4173億円。「野田解散」から累計すると9週間で計3.5兆円と巨額の買い越しを記録した。同様のペースは2005年の「小泉郵政解散」時で、この時は解散後9週間で計3.7兆円の外国人買いがあり、以来、8カ月あまり、右肩上がりの買い越しが続いた。今回の海外投資家の日本株買い越しも同様のペースを続ければ、今年7月までは右肩上がりとなるという予測記事を、大和証券チーフストラテジスト成瀬順也氏が書いているのだ。
つまり、現在のアベノミクス相場は海外投資家のマネー流入が主要因であり、2000年代同様に、株価をできるだけ高め、一気に売りに出ようというのが彼らの戦略なのだ。日本の投資家がバブル再来と浮かれている間に、海外投資家は資金を引き揚げるタイミングを冷徹に見ているというのが現状なのだ。
ただし、今回の特集で注目したい記事がある。『リスクを高める長期投資 分散投資の効果は薄れた』という吉本佳生・関西大学会計専門職大学院特任教授の記事だ。
株式投資の王道である「長期・分散投資」が実際にはリスクを抑えることができないどころか、リスクを拡大しているおそれがあるというのだ。1980年以降の日経平均株価連動で8年の投資をした場合、最大損失が元本の5割を割ったケースがかなりの比率で出現したのだ。また、分散投資に関しても、2005年以降の最近の33業種のTOPIXとの相関係数を見ると、すべての業種でTOPIXとの相関係数が高くなっているのだ(相当に似た動きをする)。今や長期・分散投資の効果は乏しくなっている衝撃の記事で、投資家にとってはいちばん重要な(業界にとってはヤバい)記事だと思うのだが、一番最後にさりげなく2ページ紹介されているだけだ。これだけで衝撃的な特集ができそうだが、どうだろうか。
(文=松井克明/CFP)