「石垣牛」「アグー豚」ブランドを独占するJAの闇 日本の農業を阻害?
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「週刊ダイヤモンド 4/13号」の特集は『実は強いぞ! 日本の農業』。「世界5位の農業大国、日本。味覚や安全性に厳しい消費者に鍛えられた農産物の品質競争力は高い。進取の気性と創造力に富んだ農業起業家は、減反などの抑制策や既得権益などの艱難を克服し、アジア・太平洋市場を取り込んで新たな成長を目指す」という特集だ。特集のスタンスは、「農地の相続や、コメの生産調整(減反)制度で放置されるなどして急増している耕作放棄地は資源、TPP(環太平洋経済連携協定)は近隣のアジア諸国に輸出が可能になる生産拡大のチャンス」として農業を成長産業と位置付ける立場だ。
『プロローグ 「農業は成長産業」と見つけたり』では耕作放棄地を資源として有効利用する取り組みや海外に成長のチャンスを見出したケースを紹介している。
『Part1 企業が生む付加価値』では、農業に参入して着々と成功しつつあるケースを紹介している。2009年に緩和された改正農地法により何度目かの「企業の農業参入ブーム」が来ている。農林水産省の調べでは法改正後の09~12年の3年間で新たに農業に参入する法人は全国で1071。03~09年の約6年半では436で参入ペースは改正前の5倍になっている。
ただし、撤退した企業も少なくない。鳴り物入りで農業に参入したオムロン、ファーストリテイリング、JTなどの大手も撤退している。農業参入の成功と失敗の分け目は、「生産した農産物をいかに確実に高く売ることができるかという“出口戦略”になってくる。
例えば、モスフードサービスの農業生産法人はハンバーガーに適した理想のトマト。トマトジュースのカゴメも生鮮トマト。カルビーは加工用ジャガイモ、「お~いお茶」の伊藤園は茶農業だ。ローソンは生鮮コンビニ「ストア100」などで販売する野菜だ。現状では、大量に一定品質の農産物を扱う加工食品メーカーが農業参入に最適だということができる。 『Part2 農業企業家が拓く』では、視線は海外、未来、多角化へ、進取の精神に富んだ若い農業企業家の台頭を紹介している。こうしたケースで共通して見られるのは、高齢者や後継者不在の農家から次々に耕作を請け負っているということだ。
日本の農業をとりまく現状は悲観的だ。就業者の高齢化で、主業生産者の平均年齢は66歳、年々リタイア数が増えている。毎年1割が引退していると仮定すると、11万人ずつ担い手が減っている計算になる。今後、5~10年で一気に担い手が減った時に生産量が減って、米価が跳ね上がるおそれがある。
『Part3 都会にある潜在自給力』では、農作業を楽しみたいという人が増え、市民農園需要が高まっていると、市民農園や、高齢者農家を助ける新たな“援農ボランティア”の仕組みを紹介している。 『Part4 成長を抑制するJA(農協)』では、農家のための組織だったJA(農業協同組合)が今、JAのためのJAになって、生産者そして日本の農業の成長を抑制していると指摘している。
TPP賛成、規制緩和の立場となれば、当然ながらその帰結はTPP参加反対の急先鋒であるJAの批判となる。今回は、分かりやすい事例を出すことで、JAの抱える問題点を明らかにしようとする。
JAのブランド独占という問題だ。たとえば、「石垣牛」。松坂牛や前沢牛などで知られるブランド牛の多くは実は石垣島および周辺の離島の子牛を肥育したものだ。この牛を石垣島で肥育したものを、「石垣牛」といい、地元の生産者もブランド化に奔走してきた。しかし、JAおきなわが08年に地域団体商標として登録。「『石垣牛』の商標を使うにはJAから、輸入飼料の3~5倍高い飼料等の農業資材を買わねばなら」ず、「JAが認めない『石垣牛』が買えない」と取引が打ち切られたケースもあったという。
ほかにも、琉球在来種の黒豚「アグー豚」に関してもJAおきなわは96年に「あぐー」の商標権を取得したために、本来のアグー豚を生産する農家が「アグー」を名乗れない状態になっているのだという。
JAは高い米価によって小規模な農家を温存し、政治力という最大の資産を保持してきた。そして自民党農林族議員、農水省との3者で「農政トライアングル」を形成してきた。しかし、いまや、農家をしばりつけるだけの存在になりつつある。
専門家は「JAはすでに非農業者である准組合員が正会員数を上回っており、地域の人々に対し、小売り、冠婚葬祭事業など生活関連事業を行う団体になっている」と指摘し、「信用・共済事業も含めた地域協同組合」と「専業農家のみが組合員となる専門農協」に二分すべきだと指摘している。
規制緩和が叫ばれながらも、この20年間、政府は農業に対して有効な手立てを打つことができなかった。ダイヤモンド誌は「TPP賛成、日本の農家は輸出産業になって大成功」という立場でTPPや規制緩和のまぶしく明るい部分ばかりを紹介しているのが気になるが、「農政トライアングル」の時代でなくなっていることはたしかだ。
(文=松井克明/CFP)