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橋本之克「カモられない!コミュニケーション」

クラウドファンディングへの大いなる誤解…9割はお金を儲けたい人のための「金融商品」

文=橋本之克/アサツーディ・ケイ 不動産エネルギー カテゴリーチーム・リーダー
クラウドファンディングへの大いなる誤解…9割はお金を儲けたい人のための「金融商品」の画像1「Gettyimages」より

クラウドファンディングがスゴいらしい

 クラウドファンディングが話題になっている。これは、インターネット上で不特定多数の支援者から、組織や個人、プロジェクトなどのために資金を集める仕組みだ。月刊情報誌「日経トレンディ」発表の「2017年ヒット商品ベスト30」において、第3位となっている。売れ行き、新規性、影響力の3点が評価され、1位の「Nintendo Switch」、2位の明治「ザ・チョコレート」といった大ヒット商品に次いで、年間ベスト3に堂々ランクインした。

 このクラウドファンディングは、実は古くて新しい。ネット経由で使われるようになったのは2000年代以降だが、基本的な仕組みが生まれたのは17世紀初頭といわれる。書籍編集者ジョン・テイラー氏が印刷代を寄付で賄ったのが始まりだ。その書籍には支援者の名前が掲載されたという。さらに1884年、アメリカ合衆国独立100周年を祝ってフランスから贈呈された「自由の女神」の建設も、初期の事例だ。不足した台座建設資金を、新聞で広く一般から寄付を募るかたちでクラウドファンディングが行われた。

でも、クラウドファンディングはわかりにくい

クラウドファンディングへの大いなる誤解…9割はお金を儲けたい人のための「金融商品」の画像2モノは感情に売れ!(橋本之克/PHP研究所)

 このように古くからある仕組みが、ネットを活用することで誰もが利用しやすくなり、今のヒットにつながった。しかしながら、クラウドファンディングに関して、実態がよくわからないという人が実は多いのではないか。「寄付みたいなものらしい」という程度の認識かもしれない。なぜなら、ゲームやお菓子のように簡単に手に取れる商品と違って、身近ではないからだ。

 クラウドファンディングがわかりにくい、もう一つの理由は、主なものだけでも3種類に分かれており、それぞれの特徴がかなり異なっていることだ。

 まず第一が「寄付型」だ。文字通り支援者がお金を寄付する仕組みであり、リターンはない(お礼の手紙などを受け取れる場合もあるが)。この寄付型は、2011年の東日本大震災後などに、復興を支えるプロジェクトとして数多く行われた。また最近では、学校の授業や部活動への支援において、あるいは地域振興を目指す市民団体のサポートとして、活用されるケースも増えている。

 第二が「購入型」である。プロジェクトに対して支援者(ファンなど)がお金を出し、リターンとして商品やグッズ、サービスなどを得るものだ。有名な事例として、2016年12月31日のSMAP解散直前にファン3人が立ち上げた「SMAP大応援プロジェクト」がある。支援者からの資金をもとに、SMAPへのメッセージを伝える新聞広告を出すプロジェクトだ。支援額は1000円と3000円の2種類で、1000円の支援者にはお礼メッセージが届き、3000円では名前が紙面に掲載される。最終的には、約1週間で1万3103人から3992万5936円を集めて、購入型クラウドファンディングにおける支援者数の記録を塗り替えた。

 最後の「貸付型」は、資産運用したい個人(投資家)から集めた小口の資金を、借り手の個人や企業に融資するものだ。「ソーシャルレンディング」とも呼ばれる。貸す側のメリットは、メガバンクの普通預金なら0.001%にしかならない金利が、ここでなら年利5~10%程度(注:ケースにより異なる)になることだ。

ハロー効果で誤解されるクラウドファンディング

 国内におけるクラウドファンディングの市場規模は、2016年度において、前年より97%増加し、745億5100万円とほぼ倍増している。そのシェアは、寄付型が約5億円、購入型が62億円にとどまる一方で、貸付型が最も大きく672億円と、全体の9割以上となっている。

 この数字は何を意味するか?

 実は、メディアに取り上げられ注目されることが多いのは、購入型や寄付型である。有名人が関わるケースや、社会的に意味のあるプロジェクトが多いためだ。しかしこれらは、全体の10%未満の規模にすぎない。シェアのほとんどを占めるのは、お金の貸し借りを仲介する貸付型だ。

 しかし、貸付型の個別事例が評判になることはほとんどない。なぜなら貸付型クラウドファンディングは、利子でお金を儲けたい人と、お金が足りなくて困っている人のための“金融商品”だからだ。日本人は昔から、お金に関する“恥”の気持ちを持ち、お金の貸し借りをおおっぴらに語ることには抵抗がある。とはいえ、お金を儲けたい人やお金を必要とする人は多い。結果的に水面下で広まるのである。

 クラウドファンディングにおいて、このような表層と実態の乖離が生まれる背景には、行動経済学が解明した「人間の不合理な判断」がある。人間は何かを判断する際に明確な手がかりがなければ、手近な限られた情報を活用しがちだ。「ハロー効果」は、その一つだ。判断する対象に関して記憶に残る鮮やかな第一印象があった場合に、それがハロー(後光)のように働き、全体的な印象が引っ張られる。

 クラウドファンディングの場合は、購入型や寄付型が醸し出す、華やかでソーシャルで社会貢献的な印象が、全体のイメージをつくっている。その影響は貸付型クラウドファンディングにまでも及ぶことになる。結果的に、お金の貸し借りにまつわるネガティブな印象が払拭され、利用が後押しされる。

でもクラウドファンディングは大事

 言い換えるとクラウドファンディングは、イメージをつくる購入型や寄付型、実態として規模を広げる貸付型が、組み合わされて拡大しているといえるだろう。ゲームやお菓子など、他のヒット商品とはかなり違う構造をもっているのだ。

 ただしクラウドファンディングの根本にある精神は、“企業や官公庁に頼ることなく、生活者個人が、自力で草の根的な相互扶助によって、自由にさまざまな活動を行おうとする”ものといえる。時代に合った仕組みであり、閉塞感ある日本経済の突破口ともなりうる。

 今後、貸付型はトクを求める人々によって自然に拡大するであろう。それも良いが、できれば寄付型や購入型がさらに広まることが望ましい。なぜならこれらは関わる人にメリットをもたらすことにとどまらず、当事者を取り巻くさまざまな人に対して、損得を超えた価値をもたらすサービスだからである。
(文=橋本之克/アサツーディ・ケイ 不動産エネルギー カテゴリーチーム・リーダー)

橋本之克/アサツーディ・ケイ 不動産エネルギー カテゴリーチーム・リーダー

橋本之克/アサツーディ・ケイ 不動産エネルギー カテゴリーチーム・リーダー

日本総合研究所を経てアサツーディ・ケイ入社。消費財から金融・不動産・環境エネルギーまで幅広く、マーケティング調査や戦略プランニングを行う。主な著作は『9割の人間は行動経済学のカモである』(経済界)

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