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今年の日本経済、安倍首相と黒田日銀総裁が最大の危機要因になる

文=有森隆/ジャーナリスト
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今年の日本経済、安倍首相と黒田日銀総裁が最大の危機要因になるの画像1安倍首相と黒田日銀総裁(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 私の株式投資の師匠の年賀状を紹介する。

「7054円から24270円までの上げ幅の1/3押し(18531円)、半値押し(15662円)が下値のメド。2019年の安値は、この2つのメドの中間を想定しています」

 単純計算で2で割ると1万7096円。1万7000円の攻防戦が今年前半と後半にあるのではないか、と師匠の年賀状から私は読み解いた。1万7000円台だと日本銀行が大量に買い込んだETFが含み損を抱えることになる。日銀の保有株の損益分岐点は1万8000円台前半との見方が有力だ。

 株価を強引に上げてきた“黒田日銀”が行き詰まる。安倍晋三首相はどうするのだろうか。日ロ領土交渉しか頭にないだろうから、株価にまで気配りはできまい。1月4日に開かれた全国銀行協会の賀詞交歓会の黒田東彦・日銀総裁の挨拶が気になった。

「マーケットのことはマーケットに聞けというが、マーケットは真相を教えてくれない。自分の判断でしっかりとした政策を行っていく」

 アベ・クロミクスが破綻し、自信を失った姿を見たような気がした。マーケットは常に真相を教えてくれる。これは歴史が証明してくれている。マーケットに正面切って対峙できなくなった人に金融のカジ取りを任せるのは危険である。私の師匠の年賀状はこう説く。

「(今年の相場は)岩戸相場から40年不況にかけての類似を想定してきましたが、これは捨てる必要がなさそうです。現役の皆さんは1200円(225種平均株価)防衛があり、(それに失敗して)底抜けした史実を知っているのでしょうか」

 株価を下支えするために1964年1月、中立的機関として日本共同証券が設立され、いわゆる“ダウ1200円防衛戦”が展開されたが、決め手にならず、昭和40年不況へとつながった。1200円防衛には完全に失敗。1100円の大台を割り込み、山一證券だけでなく他の証券会社にも取り付け的な動きが波及した故事である。歴史をきちんと認識しない為政者に我々は日本の政治・経済・外交のカジ取りを任せざるを得ない。これが2019年の最大の危機である。

日経平均株価

 1月4日、大発会の日経平均株価の安値は1万9241.37円(773.40円安)だった。1月1日付日本経済新聞では、20人の経営者が株価を予想。安値を2万1000円、2万円、1万9500円とした6人が初日でアウトとなった。ロス率は3割である。新浪剛史・サントリーホールディングス社長は安値1万9200円(1~3月と10~12月)としていたからスレスレの危険水域。ただ、新浪氏は1月3日付読売新聞の「景気・戦略30人の回答」では1万9000円~2万4000円としていた。日経新聞では安値1万9200円、高値2万6000円(7~9月)。これではまるで二枚舌ではないか。事務方がつくった回答をきちんとチェックしていなかったということなのか。日経と読売のアンケートで毎年、こうした相矛盾した回答が出るのは、どうしたわけだろうか。

 読売では30人中19人がアウト。ロス率は63%強に達した。本気で回答しているのだろうか。読売ではNTTの澤田純社長が株価、為替ともノーコメント。わからないのならノーコメントが正しい判断だ。

 読売で安値を2万2000円としたのは坂井辰史・みずほフィナンシャルグループ社長、鈴木純・帝人社長の2人。回答をいつ出したかにもよる(おそらく18年12月中旬だろう)が、先見の明がなさ過ぎる。安値2万1000円としたのは平野信行・三菱UFJフィナンシャル・グループ社長、清水博・日本生命保険社長、片野坂真哉・ANAHD社長、深澤祐二・JR東日本社長、後藤高志・西武HD社長、磯崎功典・キリンHD社長、川村和夫・明治HD社長、井阪隆一・セブン&アイHD社長、津賀一宏・パナソニック社長、進藤孝生・新日鐵住金社長、澤田道隆・花王社長、杉森務・JXTGHD社長の12人である。2万円は西井孝明・味の素社長、中田誠司・大和証券グループ本社社長、安永竜夫・三井物産社長、東原敏昭・日立製作所社長、八郷隆弘・ホンダ社長の5人だ。

 日経で“失格”となった6人はTDKの石黒成直社長(安値2万円、3月)、富士フイルムホールディングスの古森重隆会長(同2万円、1~2月)、SMBC日興証券の清水喜彦社長(同1万9500円、2月)、ユニ・チャームの高原豪久社長(同2万1000円、8月)、大和証券グループ本社の中田誠司社長(同2万円、2月)、味の素の西井孝明社長(同2万円、10~12月)である。中田、西井の両社長は読売でも同様の回答をしている。

為替

 為替はシドニー外為市場では1ドル=104円70銭をつけ、国内でも1ドル=108円前半まで円高になった。さらに円高になりそうな雲行きである。

 読売で円高の上限を110円としたのは平野信行氏、永井浩二・野村HDグループCEO、永野毅・東京海上HD社長、片野坂氏、深澤氏、後藤氏、磯崎氏、川村氏、井阪氏、杉江俊彦・三越伊勢丹HD社長、鈴木氏、澤田氏の12人。1ドル=104円になったのだから、厳密に言うと兵頭誠之・住友商事社長(高値100円)、御手洗冨士夫・キヤノン会長CEO(同100円)、東原敏昭氏(同100円)の3人を除き27人が1月4日時点でアウト(失格)となった。

 日経の為替見通しで109~115円としたのは井阪氏、磯崎氏、第一生命ホールディングスの稲垣精二社長、三井住友トラスト・ホールディングスの大久保哲夫社長、三菱商事の垣内威彦社長(6月末:110円、12月末:105円)、MS&ADインシュアランスグループホールディングスの柄澤康喜社長、三井住友フィナンシャルグループの國部毅社長、坂井氏、SOMPOホールディングスの櫻田謙悟社長(6月末:111円、12月末:108円)、清水博氏、進藤氏、JTBの高橋広行社長(109円)、住友化学の十倉雅和社長、日本郵船の内藤忠顕社長、永井氏、平野氏、深澤氏の17人が完全にアウト。JXTGホールディングスの杉森務社長(105~115円)、日立製作所の東原敏昭社長(100~120円)、三菱重工業の宮永俊一社長(105~120円)の3人のうち、完全にセーフなのは東原氏1人という惨状ぶりだ。正月恒例の読み物としてもいただけない。

 一方、アナリスト、ストラテジスト、エコノミスト、経済研究所に所属する79人から有効回答を得た「日経ヴェリタス」(2019年1月6日号)の日米の株価、為替予想は読み応えがあった。回答日時が12月下旬となっているが、それでも壁谷洋和・大和証券チーフグローバルストラテジストのように日経平均株価の高値は12月の2万6000円、安値は2月の2万1000円などという「雑」な回答も散見された。

 奥村義弘・ちばぎんアセットマネジメント調査部長はよく日経や株式専門紙にコメントが載るが、高値(6月)2万4000円、安値(10月)2万円。ほかにも安値が2万円かそれ以上という人がいたが1月第1週(厳密には1月4日)段階で安値の予想はパーフェクトに外れている。

「日経ヴェリタス」の調査で私が注目している方の回答は次の通りだ。菊地真・ミョウジョウ・アセット・マネジメント代表取締役は、日経平均株価の高値は4月の2万2000円、安値は12月の1万4000円とした。1万4000円が79人の回答者のなかでの最安値である。菊地氏は毎年、弱気派の筆頭だが、今年は安値1万4000円に説得力がある。

 草刈貴弘・さわかみ投信取締役最高投資責任者は日経平均の高値は2万4000円、安値は1万6000円。時期は明示していない。NYダウは高値2万5000ドル、安値1万8000ドル。松井証券シニアマーケットアナリストの窪田朋一郎氏は高値1月の2万円、安値は3月の1万5000円。高値2万円は回答者のなかでももっともシビアな見方だ。野村アセットマネジメントチーフ・ストラテジストの榊茂樹さんは高値2万2500円(1月)、安値1万7000円(9月)。重見吉徳・JPモルガン・アセット・マネジメントチーフ・グローバル・マーケット・ストラテジストは、為替は99.7円(10月)、114.1円(5月)と100円の大台を突破する円高とみている。嶌峰義清・第一生命経済研究所取締役首席エコノミストは12月に1ドル=97.5円の円高を予想。4月に112円とした。97.5円が最も高い円の水準だ。

 藤戸則弘・三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフ投資ストラテジストは日経平均の安値を10月1万8000円、高値は6月2万3500円とした。藤戸氏の予測は冷静であり、的を射ていることが多い。

 当たるも八卦の企画だが、30年後の日経平均株価の水準を聞いている。当然、10万円以上(6.6%)とか7万~10万円未満(11.5%)もあるが、おもしろいのは2万円未満(4.9%)、2万~3万円未満(6.6%)と10%以上の人が慎重な見方をしていることだ。

 30年後の有望銘柄は(1)リクルートホールディングス、(1)ソフトバンクグループ、(3)日本電産、(3)キーエンス、(5)ファナック、(6)LINE、(6)村田製作所、(6)サイバーダイン、(9)ユーグレナ、(9)デンソー、(9)トヨタ自動車、(9)任天堂だった。リクルートは“人手不足銘柄”の代表。米インディードの買収など海外でのM&A(合併・買収)が成果を挙げている点が高い評価を得た。キーワードは「人手不足」「AI」「高齢化」である。
(文=有森隆/ジャーナリスト)

有森隆/ジャーナリスト

有森隆/ジャーナリスト

早稲田大学文学部卒。30年間全国紙で経済記者を務めた。経済・産業界での豊富な人脈を生かし、経済事件などをテーマに精力的な取材・執筆活動を続けている。著書は「企業舎弟闇の抗争」(講談社+α文庫)、「ネットバブル」「日本企業モラルハザード史」(以上、文春新書)、「住友銀行暗黒史」「日産独裁経営と権力抗争の末路」(以上、さくら舎)、「プロ経営者の時代」(千倉書房)など多数。

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