2020年の東京オリンピック開催が決定し、日本全体の空気は上向きつつある。だが、原発や被災地を巡る問題や、財政問題、景気対策など、問題はオリンピックが開催されても氷解するわけではない。オリンピック開催に死角はないのか? 7年後に向けて、あえて苦言を呈するニュースを見てみよう。
風刺画の矛先は「日本の不透明な汚染水対策」にある - サーチナ(9月14日)
東京オリンピックの開催が決定し、フランスの週刊誌「カナール・アンシェネ」が11日付の誌面で、この決定を揶揄する内容の風刺画を掲載。その内容は、脚が3本の力士と腕が3本の力士の取り組みに、コメンテーターが「すばらしい。フクシマのおかげで、相撲が五輪種目になりました」と語るものと、防護服を着た作業員がプールの前に立ち、「五輪プールはフクシマにすでに出来上がっている」というもの。
菅義偉官房長官が「東日本大震災で被災した方々のお気持ちを傷つけ、汚染水問題に誤った印象を与える不適切な報道」だとして同誌に抗議するも、編集長のルイマリ・オロ氏は「謝罪するつもりはない」とピシャリ。オロ氏は「問題の本質は東京電力の(汚染水などの)管理能力のなさにあり、怒りを向けるべき先はそちらだ」とコメントしている。
東京五輪の経済効果、「3兆円説」は本当か? - 東洋経済オンライン(9月9日)
オリンピック招致委員会が発表した経済効果は、13年から20年までの8年間で生産誘発額が約3兆円、付加価値誘発額が1.4兆円、雇用者所得誘発額は約7500億円という莫大なもの。はたして、この経済効果は本当なのか? 東洋経済オンラインでは、この経済効果を切り口に記事を掲載している。
明治大学専門職大学院長の市川宏雄教授は「3兆円どころか、実際には10兆円はいくだろう」と強気の試算。また、オリンピック開催により整備が進めば、都市の魅力としても「世界トップを十分に狙える」と鼻息が荒い。だが、98年の長野オリンピック開催時は、施設整備などによって、02年度には1.6兆円の県債残高を抱える結果に終わった……。現在も県債利払いや関連施設維持費が長野県の財政を圧迫しており、長野では「オリンピックがなければ県民サービスが充実できたのではないか」という議論もあるようだ。
早稲田大学スポーツ科学学術院の武藤泰明教授は「五輪の経済効果がいくら、という議論は非常に内向きな話」と指摘。「開催までにバリアフリーが施されたインフラをどう整備できるか。また、震災に備えて都市復興の道筋を、五輪開催に備えた都市計画にどう盛り込んでいくかが大事」とコメント。
東京五輪決定、経済効果には疑問符 - Reuters(9月9日)
Reutersでも、東京オリンピックの経済効果を疑問視するコラムが掲載されている。筆者のPeter Thal Larsenは、のっけから「経済効果というよりは、主に心理的な好影響にとどまる」「五輪関連の投資活動が日本をデフレから脱却させるとの期待は見当違い」と厳しい意見。既存施設の利用を掲げる東京オリンピックの投資予算額は44億ドル。運営にかかる34億ドルも、チケットや関連商品の販売、スポンサーによる資金提供によってカバーされる。3兆円の経済波及効果といっても、GDPを0.5%押し上げるだけにすぎないとしている。
東京五輪を仕切るのは力不足の都知事ではなくこの4人 - 現代ビジネス(9月12日)
東京オリンピックの開催は、猪瀬直樹都知事の都政にも大きな影響があるようだ。これまで、猪瀬氏と「都議会のドン」として知られる内田茂都議を中心とする自民党都議は、犬猿の仲だった。しかし、オリンピックというビッグプロジェクトが展開されることで、一丸とならざるを得ない。
本記事では、オリンピック開催に向けて仕切り役を務めるには、行政間、業者間といった調整をさばけるだけの側近が存在しない猪瀬知事は力不足と看破する。そこで、ゼネコン各社が注目するのが、国レベルでは文科省に顔が利く森喜朗元首相と、麻生太郎財務相。都のレベルでは前出の内田都議と石原慎太郎前都知事の側近である浜渦武生元副知事だ。過去を知り、人脈があり、実力を兼ね備えた人材でなければオリンピックを乗り切ることは難しい。
国民が浮かれ気分のオリンピック。しかし、7年後に焦点を定め、裏側では、すでにさまざまな思惑が渦巻いている。
(文=萩原雄太/かもめマシーン)