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鈴木貴博「経済を読む“目玉”」

増殖中の「から揚げ専門店」が利益削り合いの地獄の過当競争に陥る理由

文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役
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「gettyimages」より

 つい先日、3年ぶりに開催された京都の祇園祭に出かけて、ふと気づいたことがありました。宵山の夜の四条界隈を散歩しながらふと見渡すと、から揚げの屋台の多いこと。どの路地を回ってもから揚げ屋台ばかり。コロナ禍前の夜店の光景と比較すれば、明らかにから揚げ屋台が増殖しています。

 日常でから揚げを手にする機会も増えています。きっかけはコンビニエンスストアでしょう。最近値上がりしましたが、それでも180円あればセブン-イレブンの店頭で買える「からあげ棒」やファミリーマートで売っている「ファミチキ」、238円のローソンの「からあげクン」など、スナック感覚でから揚げを食べるシーンが増えました。

 それまでは、から揚げといえば食事のメインディッシュだったのですが、今ではコンビニからお祭りの屋台まで、すっかり間食でから揚げを口にするライフスタイルが定着しています。から揚げを食べる頻度も量も、以前よりもずっと増えてきているのです。

 こうして市場が拡大すると参入も増えます。コロナ禍で明らかに目にすることが増えたのが、街中のから揚げ専門店です。ワタミがテリー伊藤とコラボした「から揚げの天才」やモンテローザの「からあげの鉄人」、ガストに併設された「から好し」など大手が次々とから揚げ業態に参入しています。

 それだけではありません。独立系のから揚げ専門店も街中に増殖しています。それらの個性的なお店の多くが「からあげグランプリ」の金賞受賞の文字を店頭に掲げています。これは「からあげグランプリ金賞多すぎ」とネット上で揶揄されている現象でもあるのですが、そこには理由もあるのできちんと説明しておきたいと思います。

ラーメン店とから揚げ店の根本的違い

 そもそもこの金賞を認定する「からあげグランプリ」は、から揚げの振興のために日本唐揚協会が始めたイベントです。2022年の第13回では1023店舗のから揚げ店がエントリーして、102店舗が最高金賞ないしは金賞に選ばれています。

 その理由ですが、もともとからあげグランプリが始まった背景としてラーメンブームがあったそうです。ラーメンの場合、全国的なブームがあり、さまざまなラーメン店のランキング情報が世にあふれ、そのなかで業界が発展しているという状態があったわけです。

 一方で、からあげグランプリが始まった当時は、から揚げの世界にはそのような情報がなかった。だから、おいしいから揚げ店を認定する制度を作って、それを世に広めていこうということから、からあげグランプリが始まったということです。

 そう考えるとラーメンの世界でも毎年100店以上の個性的なラーメン店が雑誌やウェブのランキング情報として取り上げられるわけですから、からあげグランプリ金賞のお店が年間102店舗も生まれていても多いとはいえないでしょう。

 同時に、これはラーメン店と違うから揚げ業態の特徴ですが、基本さえしっかりと押さえていれば、から揚げはおいしく作れるという特徴があります。金賞が多いという問題には、このようなから揚げの特性も関係してきています。

 ラーメンにもスープの方向性でさまざまなジャンルがあるように、から揚げグランプリにも地域別のしょうゆダレ部門、塩ダレ部門、バラエティ部門などいろいろな部門があります。ただ、ラーメンはジャンルの違いがあると同時に、おいしいお店とそれほどでもない店が混在するものですが、から揚げの場合は“おいしくなりやすい”という料理としての特徴があるのです。

 要するに、誰が作っても安くておいしい。これは消費者にとって素晴らしい前提条件なのですが、残念なことがひとつあります。ビジネスとして考えた場合に過当競争になりやすいのです。

参入障壁の高さ

 では、このから揚げ店のブームと増殖で、業界の未来はどうなるのでしょうか。その点に関して、私が思い出す昔話があります。ちょうどコンサル業界に入社した最初の年の研修での話です。

 当時、1985年頃の日本では2つの業態が出店ブームでした。コンビニとほか弁です。24時間開いているコンビニと、炊き立てご飯に白身魚の天ぷらがついたほかほかの「のり弁当」を290円で売るほか弁。もしサラリーマンを辞めて独立するのであれば「このどちらを選ぶのか」というぐらいの出店ブームが起きていました。

 そこでコンサルの先輩から研修の課題として、

「このふたつの業態のそれぞれの未来を予測しろ」

と言われたのです。つい数カ月前まで学生だった新入社員がそれぞれもっともらしい分析を披露したあとで、先輩がいわゆる「正解」を話してくれました。

 その正解は、まずコンビニについては「年々、高収益となって、業界は上位数社に集約していくだろう」というものです。いっぽうでほか弁については「この先、収益性は下がり撤退が増えるだろう。そのなかで1~2社が突出した寡占状態になる可能性がある」ということでした。実際、1985年当時は世の中のいわゆる花形業種だった2つの業界のうち、コンビニはその後、大発展を遂げた一方で、ほか弁業界では淘汰が始まります。

 その最大の違いは参入障壁の高さの違いにありました。コンビニ業界では物流やシステム、サプライチェーンなど業態を成立させるために作り上げなければならない仕組みが多岐に渡り、業界が発展すればするほど新たな競争相手の参入が難しくなり、かつ弱小チェーンが上位企業に飲み込まれていきます。

 しかし、ほか弁業態では少ない投資で誰でも参入ができる。そんな理由から、当初はどんどん参入企業が増えて過当競争が始まり、各社とも収益性が落ちていきます。そうなると生き残れるのはそもそも家業レベルで展開していた低コストの零細業者と、徹底的にコストをそぎ落として規模の効果でなんとか利益を上げる最大手グループだけになります。

 そして将来的に、そこにはある均衡が生まれて「あの業界はそれほど儲からない」という考え方が定着した頃に業界最大手だけがなんとかやっていけるような余地が生まれます。今の外食業態で見ると、コンビニ的な参入障壁を持っているのは回転ずし業態の大手3社や、マクドナルド、スターバックスといった高ブランド企業です。一方で、から揚げ業態はというと、その競争原理は1985年のほか弁業態に近いものがあります。

 そうなると今は出店ブームで成長期だとしても、やがて過当競争によって価格を下げ合い、利益を削り合っての生き残りが始まります。本来はそこに「味の違い」が入って差がつくことで生き残れるから揚げ店が出てくるべきなのでしょうけれども、実はから揚げ店は「おいしいお店を作りやすい」という、ビジネスとしては大きな欠点を持っているのです。

 コロナ禍のスキマビジネスとしてこのような急拡大を始めたから揚げ店ですが、この先、いずれ厳しい未来を迎えるというのが私の予測です。

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『日本経済復活の書』『日本経済予言の書』(PHP研究所)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
百年コンサルティング 代表 鈴木貴博公式ページ

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