3月10日に米シリコンバレー銀行(SVB)、12日に米シグネチャー銀行が経営破綻した。信用不安が広がり、リーマンショック以上に深刻な世界恐慌が起きるのではないかとの見解も出てきている。米財務省は破綻の連鎖を回避するため、これらの銀行の預金を全額保護すると発表した。
リーマンショック後、各国が長年にわたり競うように実施してきた金融緩和政策は実体経済が追い付かず、「出口の見えない対処療法」であり、いつかは破綻するといわれてきた。 日本も2012年からアベノミクスとして金融緩和を続けてきた。
加えて、長引くコロナ禍とウクライナ戦争によるインフレ、急な利上げは金融経済にさらなる打撃を与えた。
シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の経営破綻は序章にすぎず、 信用バブルが終えんを迎える可能性はあるだろう。昨年末の時点で、米金融機関の債権の含み損は80兆円ほどあったと報じられたが、現在はさらに損失が拡大しているとみられる。
通貨の供給量(マネーサプライ)を示す「M2」は約100年ぶりにマイナスへと転じ、「逆イールド」と呼ばれている国債の長期金利と短期金利の逆転現象も拡大が続いている。
リーマンショックは金融グループの破綻による経済ショックだったが、今回の経済危機は大手銀行や国債に打撃を与えていることから、より深刻な問題である。今後の世界経済はどうなるのか。日本ができることはあるのか。
『世界を騙し続けた詐欺経済学原論』(ヒカルランド)などの著者で経済・政治研究家の天野統康氏に話を聞いた。
――世界大恐慌は起きると思いますか?
「FRB(米国中央銀行)やECB(欧州中央銀行)などの中央銀行と、政府の取り組みによります。中央銀行が民間銀行や金融機関の抱えている膨大な債券などの金融商品の損失や、不良債権(焦げ付いた貸し出し)を迅速に処理すれば、世界恐慌にまでは発展しないでしょう。
2008年のリーマンショック以降、日米欧の中央銀行の量的緩和政策によって2000兆円以上のマネーがつくり出されました。その資金が債券の過剰な購入を引き起こし、超低金利の債券が膨大に発行される“債券バブル”が発生しました。
その債券バブルが2022年からのインフレによる金利の引き上げで崩壊し、低金利債券を保有していた世界中の銀行が損失を被っています(金利が上昇すると、以前発行された低金利の債券は価格が下落する)。
債券バブルの原資となったマネーは、中央銀行がつくり出したものです。中央銀行はいくらでもマネーを無から創りだせます。そのため、銀行や金融機関を救済することができます。
現にリーマンショックの時もリーマンブラザーズは潰しましたが、世界第2位の資産規模であったAIG保険はFRBが資金を供給して潰しませんでした。AIGを潰していたら、金融恐慌ではなく、真の世界大恐慌になっていたでしょう。
今回のクレディ・スイスの破綻も、スイスの中央銀行の融資と、スイス最大の銀行であるUBSによる買収によって一応は金融ショックを収めています。
しかし米国では、資産残高16位の銀行であるSVBを、FRBは救済しませんでした。本来なら救えたはずなのに潰したのです」
――なぜFRBは救済しなかったのですか?
「 エコノミストのリチャード・ヴェルナー氏 によると、『意図的に中小の銀行を潰し統合を進めるという中央銀行(およびそれとつながりのある国際金融資本)による計画がある』とのことです。中央銀行デジタル通貨(CBDC)をつくり、それを経済取引の中心にしていく新しい経済システムの下では、多くの民間銀行はいらないということです。
24日にFRBは金利を0.25ポイント引き上げました。インフレを抑制するためだということです。しかし、この情勢でさらに金利を引き上げれば、債券価格の下落圧力がいっそう強まります。債券バブルの崩壊の損失を悪化させる政策を行っていることになります。
そのため、今後も金融機関の財務内容の悪化は起こり、予断を許さない状況が続くでしょう。バブルの創造も、崩壊も、救済も、恐慌にすることも中央銀行の政策のさじ加減次第なのです。
これは経済情勢だけでなく、ロシアとの戦争などの地政学的な要因も絡んでくる問題です。ロシアと戦争している間は、西側が大きなマイナス成長に陥るような本格的な金融恐慌は起こさないようにしようとするかもしれません。戦争が一段落してから、本格的な金融恐慌を演出するかもしれません。
一つ言えるとすれば、今回の債券バブルとその崩壊は、あらかじめ中央銀行を管理している者たちによって計画されており、意図的につくられたものであろう、ということです」
――大恐慌になるかならないかも中央銀行次第ということですね。
「【シナリオ1】
金融機関が抱えた大規模な不良資産・不良債権を、中央銀行と政府が資金注入し処理することにより、バブル崩壊の市場への影響は限定的な形で抑えられる。一方で、中央銀行や政府の資金を注入された銀行や金融機関の統廃合は進められる。
【シナリオ2】
中央銀行と政府は、現在行っているように、それなりに金融恐慌が起こらない範囲で対処する。しかし利上げなどを行い、さらなる損失を金融機関に与えていく。ロシアとの戦争が一段落したら、頃合いをみて財務の悪化した銀行・金融機関を破綻させる。その結果、金融恐慌が起こる。
【シナリオ3】
すでに債券バブルは崩壊し、財務内容が悪化した銀行は何百もある。その金融機関を救う適切な政策を、中央銀行も政府も取らない。短期間で、複数の金融機関が破綻し、信用不安が連鎖。すぐに金融恐慌および世界恐慌に発展する。
このどれかだと思います。どうなるかは西側の中央銀行と政府を牛耳る国際権力の意向次第でしょう」
――銀行からお金が引き出せなくなったり、ペイオフ、通貨リセットが起きる可能性はありますか?
「これも中央銀行の金融政策と政府の介入次第になります。特に日本の場合、地方銀行を中心に、すでに外国債券の価格下落による損失を被っています。日本では、銀行が破綻すれば1000万円とその利息分しか保証されません。
今回のSVBの破綻時には、それまでは保護する預金額に上限を設けていたのに、急きょ全額保護すると米国政府は変更をしました。日本政府もそのような対応をとればよいのですが、そうするかはわかりません。
【シナリオ1】預金封鎖は起こらない。銀行預金も大部分は保護される。通貨リセットにまではいかない。
【シナリオ2】一時的に収束させるが、後日、金融恐慌が起こる。
【シナリオ3】預金封鎖は起こるかもしれない。銀行預金は、全額は保護されないでしょう。通貨リセットの可能性もある」
――大恐慌に備えて、日本がするべきことはありますか?
「日本政府と日銀がするべきことは、有価証券などの含み損を抱えてしまった銀行や金融機関を、金融ショックが起こらない範囲で迅速に救済することです。もちろん、自己責任は重要ですが、それは救済した後に、時間をかけて慎重に処理をしていけばよいのです。
そもそも、銀行の倒産は帳簿上の数字によって起こされるものです。そして帳簿上の数字としての資産を日銀が無尽蔵につくれることは、この10年間の“黒田日銀”が500兆円以上のマネーをつくり出したことからも明らかです。
上記で紹介したエコノミストのリチャード・ヴェルナー氏は、1980年代の不動産バブルが崩壊し、その不良債権を抱えたことによって融資ができなくなった日本の銀行を救済する手段として、日銀による不良債権の買い取りを提案していました(それは実現しませんでしたが)。
日銀は無からマネーをつくれるので、誰の負担にもならず、不良債権の処理ができるのです。これは、リーマンショック後に金融機関の不良資産となった不動産証券の購入を、FRBが大規模に行ったことと同じです。
今回も同じように、不良債権化した債券などを日銀が額面で購入してあげれば金融機関の倒産は防げます。それをやる気があるかないかということです。
ほかにも欧米で金融恐慌が起こってしまった場合の対策としては、ありきたりですが、金などの現物投資を増やしておくのが賢明だと思います」
中央銀行と日銀は一時的な「対処療法」や私利私欲に走らず、 不良債権迅速に処理し賢明な救済策を打ち出すべきだ。
(文=深月ユリア/ジャーナリスト)