建設業界、なぜバブル到来でも苦境?深刻な人手不足、コスト増、倒産企業も…
建設業界を取り巻く環境は1年前とは一変した。東日本大震災からの復旧工事にアベノミクスの機動的な財政出動で受注が増えていたところに、12月4日、国土強靱化基本法が成立。この法律により、15兆円を超えるインフラ投資を行うことになるといわれている。
2020年の東京五輪決定で、インフラの整備も前倒しで進む可能性がある。そして、建設費は9兆円という27年のリニア中央新幹線の開業もある。こうした国家規模のイベントに向けて、建設バブルが起きているのだ。
深刻な人手不足
深刻になりつつあるのは人手不足だ。というのも、建設業界はこの20年間、縮小の一途だった。建設投資はピークから半減。08年のリーマンショック後は、民間工事では日給1万円も稼げない時期が2年ほど続き、ワンコイン(時給500円)大工と呼ばれる職人まで現れた。建設業の就業者は15年間で約180万人減。若者離れで就業者の3分の1が55歳以上と、高齢化も深刻といった状況だ。人手不足はゼネコンの技術者から下請けが抱える技能労働者まで、ありとあらゆる職種に広がっているのだ。
このため、今春、国は公共工事の基準となる労務単価を平均で約15%引き上げた。労務単価の上昇は16年ぶりだが、しかし、実際の労務費はそれ以上に上がっており、全国の公共工事では入札不調が相次いでいる。東京都が築地市場を江東区豊洲に移転する建設工事の主要3棟の入札は(予定価格が約160~260億円という大型契約にもかかわらず)ゼネコンが入札を辞退し、再入札をすることとなった。15年度中の市場移転をスケジュール通り行う考えだが、思ってもみない不調となった(特集記事『PART3 構造問題を解決できるか ゼネコンを悩ます最大のボトルネック 公共工事ができない! 全国に広がる技能者不在』)。
マンション供給減少の予想
さらに厳しいのは、民間工事だ。労務費が高騰しており、資材高もあって、マンションの1坪当たりの建設費は、3年前に比べて平均25~30%上昇した。さらなる上昇が予想されており、コスト増を販売価格に転嫁すると、買い手がつきにくい郊外を中心にマンション建設が減少していくと予想されている。小売業界も、建設コストのこの1年での3割近い上昇で出店が抑制されがちだ(特集記事『PART1 バブルがやってきた!~マンション・店舗が造れない 安値受注はもう「お断り」 ゼネコンの倍返しが始まる』)。
ただし、全国的に建設業界を見れば、東日本大震災以降、「東高西低」が定着している。西日本に拠点を置く建築主体のゼネコンは復興需要の恩恵を受けにくい。さらに大阪では財政悪化で公共工事が削減され、地元は苦境が続いている。13年4月の大阪駅北ヤード跡地(通称うめきた)に大型複合施設「グランフロント大阪」が開業。14年3月には、現在部分開業している「あべのハルカス」(複合ビルでは横浜ランドマークタワーを抜いて高さ日本一)が全面開業するが、そこから先の景気のいい話が見えてこないのだ。かといって、東日本大震災の被災地のゼネコンが潤っているというわけでもない。岩手県花巻市の土木工事業者は、この9月、負債2億円で民事再生法の適用を受けた。震災後は沿岸部の復旧工事を受注したが、人手不足から工期に間に合わず、建て替え金が発生し、資金繰りが悪化したのだ。
また、福島県のゼネコンでは、除染の人員を日給1万5000~1万6000円で募集しても人が集まらない状態だという(特集記事『PART2 全国縦断! 地方ゼネコンの実態』)。建設業界も、おいしい仕事が転がっている東京の独り勝ちという皮肉な結果になりつつあるようだ。
(文=松井克明/CFP)