【ドバイ時事】岸田文雄首相は2日(日本時間3日)までのアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ滞在中、脱炭素に向けた日本の取り組みをアピールし、中東各国首脳にパレスチナ情勢の沈静化を働き掛けた。内閣支持率が低迷する中、外交で挽回を図ったが、見せ場は乏しかった。国内では自民党安倍派の裏金疑惑を中心とする「政治とカネ」の問題が急拡大し、政権運営は険しさを増している。
「アジアの脱炭素化に向けた取り組みを日本がリードするという考え方を示した」。首相は2日、ドバイで記者団に成果を強調した。ドバイ訪問の主目的は国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)首脳級会合での演説。首相は、温室効果ガス排出削減対策を講じていない石炭火力発電所の国内での新設終了を宣言し、新興・途上国の脱炭素化支援を訴えた。
16日から東京で開く東南アジア諸国連合(ASEAN)との特別首脳会議に合わせ、日本の技術で脱炭素化を進める「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」の首脳会合に臨む。首相周辺は「アジアをリードする」と意気込んだ。
日本は、石炭にアンモニアを混ぜて燃やす「混焼」技術で二酸化炭素の排出量を減らし、一定規模の石炭火力を維持する方針。演説では稼働している発電所の廃止時期に触れなかった。欧州諸国から「延命策」と批判を受けており、今回の首相の「国際公約」に対しても「新鮮味はない」(自民中堅)と冷ややかな見方が広がった。
訪問のもう一つの狙いは中東情勢の安定化だった。イスラエルのヘルツォグ大統領や、同国とイスラム組織ハマスの一時休戦を仲介したカタールのタミム首長らと相次いで会談し、ガザ地区の人道状況改善や事態の沈静化を促した。
首相はヘルツォグ氏に、戦闘休止や人質解放などハマスとの合意を「歓迎する」と表明したが、この会談直後にイスラエルが戦闘再開を発表。首相は「残念だ」と落胆し、同行した政府関係者は「想定していた展開が変わった」と語った。
原油輸入の9割超を中東に依存する日本は、この地域の安定が死活的に重要だ。ただ、日本外交が果たせる役割は限定的で、外務省関係者は「人道(支援)を前面に出すしかない」と認めた。
一方、首相の国内不在中に、安倍派の政治資金パーティーを通じた裏金づくり疑惑が浮上。同派で事務総長を務めた松野博一官房長官、西村康稔経済産業相は説明を避け、政権にダメージを与えている。
国会では衆参両院予算委員会の集中審議が8日に行われる見通しで、野党が厳しく追及する方針。3日に帰国する首相は指導力を問われる局面を迎える。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2023/12/02-20:23)