日本経済がデフレからの完全脱却に向け正念場を迎えつつある。物価は上昇基調をたどり、賃金改善への期待も高まり、政府は「デフレ完全脱却の千載一遇のチャンス」(岸田文雄首相)と意気込む。ただ、需要と供給力の差を示す需給ギャップはなおマイナス圏。脱デフレ宣言できるか、政府は物価や賃金の動向などを慎重に見極める。
日本経済はバブル崩壊後の1990年代にはデフレに陥ったとみられ、政府は2001年、月例経済報告で公式にデフレを宣言した。デフレは企業の国内投資抑制や賃上げ停滞などを通じ、低成長の要因となってきた。
政府はデフレ脱却を「物価が持続的に下落する状況を脱し、再びそうした状況に戻る見込みがないこと」と定義する。06年に内閣府が国会に提出した資料が基になっており、その際重視する指標に挙げたのが(1)消費者物価指数(2)国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーター(3)需給ギャップ(4)一定量の製品を作るのに必要な賃金を示す単位労働コスト―の四つだ。
このうち物価を示す2指標はロシアのウクライナ侵攻があった22年以降大きく上昇。今年1月に閣議決定した政府経済見通しでも、24年度の消費者物価指数(生鮮食品を含む総合)は前年度比2.5%上昇と予想する。
需給ギャップはコロナ禍で落ち込んだ後、反転上昇したものの、23年10~12月期はマイナス0.7%、通年でも需要不足だ。単位労働コストもゼロ%前後で推移。物価高の影響で実質賃金は今年1月まで22カ月連続でマイナスとなった。
内閣府が2月に公表した23年度の日本経済リポート(ミニ経済白書)では、需給ギャップなどのプラス転換だけで脱デフレと判定するのは「慎重であるべきだ」と指摘した一方、サービス分野の物価上昇などから、脱却に向け「前向きな動きが出てきている」と分析した。内閣府幹部は「脱却への環境は整ってきている」との認識を示す。政府は、賃金など幅広く経済状況を確認し脱却判断の可否を探る。
明治安田総合研究所の小玉祐一フェローチーフエコノミストは「賃上げが最重要だが、実質賃金は依然マイナス。宣言後に景気が悪化するリスクもあり、早期の脱却宣言は困難だ」とみている。 (了)
(記事提供元=時事通信社)
(2024/03/05-19:12)