●キリンとの経営統合構想再燃の可能性も
東洋経済は今回の社長交代を、サントリー内部だけではなく、サントリーの取引先さえも刺激しかねない衝撃人事だという。それは、ローソンからの引き抜きは流通業界からは「ローソンとサントリーの一体化」と受け止める向きがあるからだ。飲料業界では圧倒的な販売量を誇るコンビニ最大手・セブン-イレブンがどう出るかに注目が集まっている。
さらに、同誌では新浪氏のサントリー社長就任について、興味深い見方を紹介している。それは、2010年に断念したキリンとの経営統合構想が再燃するのではないかというのだ。
「信忠氏は日本の食品業界の利益率の低さを憂いていた。過当競争を脱し、再編が進む海外の食品大手と渡り合える体制を作る。キリンとはそんな思惑が重なっていた。交渉当初、『これまでのキリンともサントリーとも全く違う会社を作る』と信忠氏は意気込んでいたが、統合比率問題が最後まで解決しなかった。
キリンが示した統合比率はキリン1に対してサントリー0.5。サントリーの企業価値をキリンの半分と評価した。対等にこだわるサントリーもキリンに歩み寄りを見せたが、サントリー創業家が新会社の経営に口出しできる体制を避けたいとの思惑は変わらない。10年2月には統合を断念することになる」(「東洋経済」より)
ローソンの社長として有名な新浪氏だが、もともとは三菱商事出身だ。つまり、ダイエーから三菱商事に委ねられたローソンの経営を任されたのが新浪氏だったというわけだ。
「三菱商事首脳陣からも『ローソン成長の功労者』という評価を受ける新浪氏、同じ三菱グループのキリンとサントリーの橋渡し役になりうるのではないか。流通や食品業界ではそんなうわさがくすぶる」(「東洋経済」より)
というのも、信忠氏は世界第5位のスピリッツメーカー、米ビーム社を総額1兆6000億円で買収するなど、グローバル化を目指してきており、その方向を引き継ぐための新浪氏の社長就任とされているのだが、国内的な実績(11期連続の営業増益。13年度の営業利益は681億円と就任当時のおよそ2倍に押し上げた)はともかく、ローソンの海外事業はむしろ他社よりも遅れているからだ。
「ローソンが力を入れる中国事業はまだ赤字を脱却できないでいる」「並みの経営者以上であることは疑いようがない。だが、売上高2兆円規模を誇り、グローバル化を本格化させる巨大食品グループを率いる力量を持っている人物なのかどうか。そこは判断が分かれるだろう」(「東洋経済」より)。つまりグローバル化への力量はあまりにも未知数なのだ。
●ローソンに残る不安
一方、社長が引き抜かれた側のローソンも不安が漂う。不安のもとは今年3月、社長に就任したばかりの玉塚元一氏。玉塚氏といえば、「ユニクロ時代、柳井正会長(当時)のお眼鏡にかない、社長に引き上げられたが、結局力を発揮しきれず退任。そんな経緯から、玉塚氏には『手腕は未知数』(ローソンOB)との評価がつきまとう」(「東洋経済」より)。
玉塚氏がローソン社長に就任できたのも、代表権のある副社長に三菱商事出身の竹増貞信氏の就任を認めたためだという。結果が残せなければ、三菱商事人脈で経営を行うことになる。
こうした裏側を見ると、もし、信忠氏がサントリーではなくローソンの経営者だったら、信宏氏に言ったように、玉塚氏にも「成功体験」が足りないとして、社長就任は許さなかったのではないか。
最近、話題に上るようになった「プロ社長」だが、後継の社長の発掘・教育についてはほとんど無関心なのが特徴なのかもしれない。後継社長を育てるというのは「プロ社長」の役割ではないということか。
なお、今回、新浪氏のグローバルな経営手腕について疑問を投げかけたのは、「東洋経済」だが、ライバルの「ダイヤモンド」は新浪氏を連載陣に抱えているためか、十分に配慮した特集になっていた。
(文=松井克明/CFP)