「ところが、現在のように視聴率が下がってくるとどうなるでしょうか。下がった分、CMを流さなければいけない回数が反比例して増えていきます。すると契約のCM放送『量』をこなすために、イニングが代わってもまだCMが流れているといったことすら起きてしまいます。ですからCMが終わって野球中継に切り替わったときには、すでに2アウトになっていて、1分も試合を見ないうちにチェンジで、また長々とCMが始まってしまうのです」(同)
「CMのせいで、せっかくのゲームがきちんと放送されないのですから、プロ野球中継への興味が薄れてしまいます。だから、プロ野球中継の視聴率はさらに下がり、その埋め合わせにCMをたくさん放送しなければならないという悪循環がテレビ局の都合で起きてしまったのです」(同)
その後、プロ野球中継は激減したが、ほかのスポーツでもCMばかりの中継はいまでも視聴者には不人気だ。その背景には、こういったテレビ局側の事情があったわけだ。
●見えない広告
視聴率を獲得しにくくなったことで、テレビ局は番組内のシーンもスポンサーに売り出すようになった。それが見えない広告、「プロダクト・プレースメント(番組内広告)」だ。
「例えば、ドラマの中で缶コーヒーを飲むシーンがあるとします。(略)NHKなら商品名が特定できないように撮影しますが、民放テレビ局の場合は、番組スポンサーについている会社の商品を使います。飲料メーカーがスポンサーについていない場合はこれらの発売元とかけあって、お金を出してくれた企業の商品を小道具として使います。その際には、パッケージがはっきりと見えるように撮影します。今度、テレビを注意して見てください。ドラマなどの創作番組の中では、商品がそれとわかるかたちでは、ほとんど登場していないことに気がつくと思います。そして、はっきりと特定できる商品やロゴがほんの数点だけあります。それが『見えない広告』、プロダクト・プレースメントです」(同)
見えない広告は、NHKでさえも行っている。
「NHKはサッカー・ワールドカップやオリンピックの放送に、テーマソングをつけるようになりました。アテネオリンピックでは、ゆずの『栄光の架橋』がオリンピック期間中、何度も放送されていました。(略)それでも、このテーマソングの放送に関してお金が動いていないのなら、番組の演出や編成の都合だと言い切ることができるかもしれません。しかし、その実態は、NHK(の子会社)が楽曲の原盤権の一部を所有し、CDが売れるごとにキックバックを受け取る権利ビジネスです。つまり、NHKはCDを売るために放送法で禁止されている『他者の営業』をしていたのです」(同)
見えない広告で、私たちは感動も買わされているのもしれない。谷村氏に合掌。
(文=松井克明/CFP)