人が亡くなったまま放置される、いわゆる事故物件。高齢化が進むにつれ孤独死は増え、今後もこうした事故物件は後を絶たないだろう。
そこで、ニーズが増大しそうなのが、特殊清掃業者だ。特殊清掃業者とは、孤独死や自殺などで汚染された住宅を清掃する特殊業者のことだ。
『住宅情報誌が書かない コワ~い不動産の話』 (別冊宝島取材班/宝島社)収載のルポ『特殊清掃・遺品整理業で働いてみた!』では、特殊清掃業者で清掃補助のアルバイトとして働いた青年の話が紹介されている。
「東京近郊の閑静なベッドタウンに建つ50坪ほどの木造家屋。隣家の住人がこの家に住んでいた80代の女性の孤独死に気づくまで4日ほどだったというが、入梅前の蒸し暑さの中、相当に腐敗は進んでいた」
このような状態の家屋の清掃には、想像を絶する作業が待ち構えているという。
「湿度の高い天候の中、作業着の上にさらにタイベック(対細菌防護服)で頭まで覆い、高機能マスクに密閉性の高いゴーグルという原発作業員並みの装備をしてもなお、腐臭からは逃れられない。故人が亡くなったのは、一階12畳のリビングとダイニングの間。たった4日で遺体から浸出した体液はフローリングに見事な人型を作って広がり、廊下にまで赤黒く厚みのある巨大な瘡蓋のような染みを作っていた。床下収納から建物の床下を覗いていた清掃業者の社員スタッフがぼやく。どうやら腐敗した体液がフローリングとドア枠の隙間から浸出し、床下も汚染されていたようだ」
遺体の腐敗具合が生々しく描写される。さらに故人の一人息子の男性が現場に立ち会えないほど悲しみにうちひしがれるが、男性は現実的な問題として、クリーニングのみならず、不動産の処分方法について検討しなければならない。それは必ずしも財産とはならず、大きな負担となることもある。
別居して暮らす親の死が、本来相続財産であるはずのその不動産を「巨大な負の遺産」にしてしまうのだ。なお、こうした特殊清掃業者は、事故物件専門の不動産業者やリフォーム業者との兼業が多く、大規模なリノベーションを提案するか、確実に売れそうな立地であれば業者が丸ごと買い取りを提案することもあるという。
空き家が「負動産」になる
資産であるはずの不動産だが、事故物件以外でも空き家が負債になる時代がやってくるとして警鐘を鳴らすのは、「週刊現代」(講談社/2月28日号)の特集『知らぬ間に法改正されていた 「空き家」を持っていると大損する』だ。
「2月末から密かに施行されようとしている、『空き家対策特別措置法』をご存じだろうか。更地の6分の1だった固定資産税の税率が更地と同様となり、空き家を持つ人は従来の6倍の税負担を背負わされる恐れがある新法だ」(同記事より)
全国に存在する空き家は820万戸。この背景には、空き家の固定資産税を更地の6分の1にする優遇措置がある。しかし、この優遇措置があるために空き家は放置され、いわゆる廃屋になっていて、ホームレスのたまり場になっていることもある。
今回の特別措置法では「施行後から自治体ごとに空き家を調査し、5月末をめどに廃屋同然になっている物件を『特定空き家』と認定。所有者に管理をするよう、『指導』を行っていくという」(同)。この指導に従わない場合には、固定資産税の優遇措置が外されるのだ。しかし、この特定空き家の認定の基準は未定で、各自治体任せになりそうだ。気がつけば、空き家となっている実家が自治体から特定空き家の認定を受けて、固定資産税が6倍になる可能性がある。持っているだけで負債が増えるのだ。
こうしたリスクを避けようと空き家を売ろうにも、なかなか買い手はつかない。やっと買い手が見つかっても、1000万円くらいすると見込んでいた家の価格が8万円だったという事例もある。さらにその事例では、家屋の解体費用は売り手側の負担とされ、解体費用150万円に、荷物整理200万円の費用がかかったという。所有していても、売却しても負債となる。こうした空き家は「負動産」と呼ばれ始めている。
特にこうしたケースは地方で深刻だ。相続税の増税で節税策に注目が集まっているが、相続税よりも負動産に悩まされる人が増えていきそうだ。
(文=松井克明/CFP)