ほぼ1年をかけて準備してきた大型入札の締め切り期限まで、わずか6日(4営業日)を残すのみとなった3月25日のこと。東京電力は一方的に、外部の発電事業者が火力発電所でつくり出す電力を入札で調達する計画の対象から、液化天然ガス(LNG)を燃料とするケースを除外して、その入札を先延ばしする方針を打ち出した。
この調達計画は、輸入価格が高騰しがちにもかかわらず、長年にわたって改善できなかった中東産LNGへの依存を脱却する第1歩として期待されていた。その期待を裏切ることになった背景には、米国産シェールガスの使用を前提に入札することを条件としていた経緯があげられる。皮肉なことに、このところの原油安に伴って中東産LNGの価格が下がっており、無理にシェールガスを使わせようとすると調達コストが割高になりかねないというのである。
福島第一原子力発電所の廃炉を掲げる東電にとって、外部からの調達は安定電源の確保のために不可欠とみられていた。加えて、中東産LNGに対する依存度の引き下げは、エネルギー安全保障の観点から必要だと経済産業省が東電を後押ししてきた課題である。電力・エネルギー関係者には、「目算が甘かった。シェールガスを取り込めれば、電気が安くなるという神話も幻に終わった」との失望感が漂っている。
原発への依存度を引き下げていくうえで、水力、太陽光、風力などの再生可能エネルギーを用いた発電の比率を劇的に高めることが難しいため、火力発電の中では温暖化ガスの排出が少ない電源として、LNG火力発電が大きな期待を集めている。LNGを燃やしタービンを回して発電した後に、排熱を利用して再度発電するコンバインドサイクル発電化を進めれば、燃焼効率を大きく向上させることも可能だ。それゆえ、各地の老朽化した石炭火力発電所や石油火力発電所の設備を更新する技術としても、LNGを使ったコンバインドサイクル発電が採用されるケースは増えている。
ただ、石炭火力発電に比べると、LNG火力発電は、燃料の調達コストの高さが弱点になっていた。その原因は、これまで燃料の主たる調達先が中東地域に限定されていたことにある。特に、他国に比べて国内需要の旺盛な日本の商社や電力会社は、足元を見られがち。市場実勢を上回る価格での輸入を迫られたり、長期的な買い取り契約を強いられたりして、市況に応じて機動的に調達することが難しいとされていた。
そこで、東日本大震災後、政府・経済産業省は、近年の技術進歩によって地中深くに埋蔵されている資源の採掘が可能になった米国産シェールガスや、欧州向け輸出の減少が見込まれるロシア産の天然ガスに白羽の矢を立てた。資源調達先の多様化によって、天然ガスの調達コストを引き下げるよう、関係業界を行政指導するようになったのだった。