●当然の翻意の背景
今回の東電の入札は、国や金融機関の支援を前提にした東電の再建計画「新・総合特別事業計画」に基づくものだ。2019年4月からの5年間に供給を開始できる発電所の中から、電力の購入先を決めることになっていた。燃料別では石炭火力とLNG火力の2つが柱で、合計600万kW分を買い付ける計画だった。昨年4月に入札の基本方針を公表、同8月に説明会を開催して入札募集手続きを進めてきた。
すでに東電は、廃炉を決定している福島第一原発の6基のほか、東日本大震災後の電源不足に対応して設置した「緊急設置電源」の大井2号ガスタービン、姉崎1~4号ディーゼルエンジンの両発電所の廃止も決めている。このため、今回の入札によって新たに電源を確保することが、電力の安定供給義務を果たすうえで不可欠としていた。
このうちLNG火力発電については、日本勢が米国での油田開発に参加している3カ所・4ガス田からのシェールガス輸入が2017年頃に始まる見通しのため、東電はシェールガス価格の指標になっている「ヘンリーハブ」に基づく入札価格の算出を求めていた。
ところが、東電は3月25日付でプレスリリースを公表し、突然、その方針を翻した。「昨今の原油価格やガス価格の急激な変動により、ヘンリーハブリンク比率を固定した燃料費調整指標による入札が困難となる見通しを持っております。したがって、LNG火力については、適正かつ適切な別途の入札を早急に実施する予定です」と、一方的に期限を切らないまま、入札を先送りしてしまったのである。
このプレスリリースを額面通りに受け止めると、昨年秋ごろから中東産の原油価格が急落し、原油価格に連動して輸出価格が決まる「オイルリンク」の中東産天然ガスは価格が急落した。その結果、皮肉なことに、昨今は米国産のシェールガスよりも中東産の天然ガスのほうが廉価という状況になったため、現時点でシェールガスを主に使う発電所から電気を調達する長期計画を確定してしまうのはマズイとの経営判断が働いたということらしい。
●甘い見通し
だが、こうした事態は、早くから想定の範囲内だったはずだ。というのは、やはりオイルリンクで価格が決まるアジア産の天然ガスは、中東産に加えて豪州産の供給が増えている一方で、国内経済の減速が目立つ中国、韓国の輸入の縮小によって、国際的な需給環境が緩むとみられていたからだ。長い目で見れば、オイルリンクの天然ガスとシェールガスとの間での価格裁定も働くようになるはずで、経済産業省や東電が推進してきたシェールガスだけを軸にする入札方式に大きなリスクがあることは、当初から予想されていたのである。それだけに関係者の間には、「東電が中部電力と折半出資で4月に発足させる予定だった火力事業会社が準備不足なので、入札を延ばしたのではないか」(大手発電事業者)とうがった見方をする向きも少なくない。