プリキュアビジネスの深謀遠慮を読み解く…小学生コスメと“プリキュア5コラボ”のワケ
連載3回目の今回は、2020年代になって、「女児向け人気アニメシリーズ『プリキュア』のターゲット年齢に変化が出てきているのでは?」というお話です。
18年目を迎えたプリキュアシリーズ
「プリキュア」は、2021年現在で18年目を迎える、小さな女の子から絶大な支持を集めているアニメーションシリーズです。
毎週日曜日の朝8時半からテレビ朝日系にて放送され、基本的なフォーマットは「女の子たちがプリキュアに変身し、異世界から来た妖精とともに悪い存在と戦い、自身の夢を叶えていくストーリー」となっています。
毎年2月から1年間放送され、2004年に放送された第1作『ふたりはプリキュア』以降、毎年キャラクターが一新され、今やシリーズ18作累計で69人以上ものプリキュアが登場し、そのかわいさとカッコよさが多くの子どもたちの心をつかみ続けています。
プリキュアのターゲットは3~6歳
このプリキュアのメインターゲットは「3~6歳の未就学女児」であると、関係者へのインタビュー記事等でたびたび言及されてきました。
「プリキュアのメインターゲットは3~6歳の未就学女児だが、過去の購入動機を分析すると3,4歳には成形品のなりきりアイテムが、5,6歳にはお世話アイテムが人気だった。
(「月刊トイジャーナル 2016年2月号」(東京玩具人形協同協会)P.9より)
また、プリキュアをメインで扱う講談社の幼児向け雑誌「おともだち」の表紙には「3・4・5歳」、「たのしい幼稚園」には「4・5・6歳」との表記もあり、ここからも、プリキュアというアニメーションは主に「3~6歳の未就学児」をターゲットとしていることもわかります。(ただし、プリキュアのターゲットには「プリキュアを子どもと一緒に観ている保護者」も含まれていることも、各種インタビュー等で言及されています)
しかし2021年になって、そんなプリキュアのターゲット年齢が変化してきているのです。
ただし、一口に「プリキュアのターゲット年齢」といっても、2種類あります。
1、プリキュアの「アニメ自体」のターゲット年齢
2、プリキュアのファングッズのターゲット年齢
今回は、1の「アニメ自体のターゲット年齢」に変化が出てきたぞ、というお話です。2の「プリキュアのファングッズ」は、過去からずっと専門ストアにて「大人向けアイテム」が多数展開されています。
小学生に販路を広げる「Pretty Holic」
2021年放送のプリキュアシリーズ最新作『トロピカル~ジュ!プリキュア』において、プリキュアの玩具販売に画期的な出来事が起こりました。
玩具の新ラインとして発売されたキッズコスメシリーズ「Pretty Holic」の対象年齢が「6歳以上」だったのです。
キッズコスメという商品の安全性上の問題のためだとは思われますが、「対象年齢が6歳以上」では、これまでのプリキュアターゲット層だった未就学児の大半が遊べません。
つまり2021年になってバンダイは、「これまでのターゲット層が遊べないプリキュア玩具」を本格展開し始めたのです。
プリキュア放送開始から18年間、プリキュア関連商品はこれまで、「変身アイテム」等の主力玩具だけに限らず、塗り絵や鉛筆などの文具、シャンプーや絆創膏、歯ブラシなどの日用雑貨にいたるまで、対象年齢を「3歳以上」として作られてきました。
その慣例を破り、対象年齢6歳以上の玩具を展開した理由として、バンダイのマーケティング担当は「6~9歳の小学生女子は、プリキュアを視聴はしているけど、玩具は買わない」ため、その層へ向けての商品展開だとしています。
キッズコスメ商品のメインターゲットは6歳以上。小林氏は「6~9歳のプリキュア視聴層は多いものの、玩具購入となるとそのほとんどが3~5歳。6~9歳は番組を見ているけど、玩具をほとんど購入していないのでそうした層にアピールしていきたい」と語る。
(『月刊トイジャーナル 2021年2月号』(東京玩具人形協同協会) P.9より)
「幼稚園・保育園を卒園したらプリキュア玩具も卒業」といわれる風潮に歯止めをかけ、小学生にもプリキュア玩具を展開することにより、販路の拡大を狙っていくようです。事実、この「Pretty Holic」シリーズは、小学生女子にかなり好調な売り上げのようです。
プリキュアを観ているのは若い女性
もうひとつ、プリキュアのターゲット層に大きな変化がみられるようになってきました。いわゆる「大人の層」へのアプローチです。
プリキュアというと、「子ども層」以外は、いわゆる「男性オタク」がファンとして多くついているイメージを持っている人も多いかと思いますが、実際のところはそうではありません。
子ども層以外でプリキュアを観ているのは「大人の若い女性」が圧倒的に多いのです。
これは、2019年9月14日にNHKで放送されたスペシャル番組『全プリキュア大投票』の全体投票数の結果です。
これはインターネットを使用した投票で、このときは女性票が72.6%を占め、年代別で見ても10~19歳が38.1%、20~29歳が28.7%と10代、20代を合わせて66%を越える結果となりました。
つまりプリキュアは、「女性」、特に10代20代の若い女性により多く支持されているコンテンツであることが、この結果からうかがえたのです。
こうして2020年代のプリキュアは、この「若い女性層」にも目を向けた展開が始まりました。
『Yes!プリキュア5GoGo!』とのコラボレーション
2021年3月に公開された、プリキュア映画第29作『映画ヒーリングっど・プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!』(・はハートマーク)では、2008年に放送されたプリキュアシリーズ第4作『Yes!プリキュア5GoGo!』に登場したプリキュアとの共演が話題となりました。
『Yes!プリキュア5GoGo!』は、先述のNHK『全プリキュア大投票』でも作品部門で3位に入ったほどの人気作で、女性の投票率が91.6%、10代の投票率が77.1%を占める、若い女性に圧倒的に支持されているシリーズです。
この映画では、2020年放送の『ヒーリングっど・プリキュア』と、2008年の『Yes!プリキュア5GoGo!』が夢の競演を果たしました。
また本作では、今後の試金石ともなり得る「大人向け」の施策も実施されました。
スマホアプリを使った「副音声ボイスドラマ」のサービスが実施され、『Yes!プリキュア5GoGo!』の声優さんによるサブストーリーを映画館で聞くことができたのです。この施策は、かつての「プリキュア5」ファンの大人たちの足を劇場に運ばせる結果となりました。
また、2021年10月に公開される映画最新作『映画トロピカル〜ジュ! プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪!』でも、NHK『全プリキュア大投票』で作品部門2位となった人気作『ハートキャッチプリキュア!』(2010年)との共演が予告されていて、こちらもかつてのプリキュアファンの大人を取り込んでいく施策がとられています。
それまでのプリキュア映画は、あくまでも(建前としては)「子どもとその保護者向け」を謳っていたのが、2020年に入り、過去人気作との共演により「かつてプリキュアを観ていた若い女性」をも映画館に呼び込む戦略がとられるようになってきたのです。
これまでも、「春のプリキュアオールスターズ映画」などで、お祭り的に過去のプリキュアが出演することもありましたが、現行作品に過去の人気プリキュアがガッツリと絡んでくるというのは、この先の新しいプリキュア映画の定型のひとつのとなっていくのではないでしょうか。
「子どもとその保護者」に加え、「子どものときにプリキュアを見ていた大人」へ、プリキュア映画のターゲットが変化してきているのです。
かつてプリキュアを観ていた大人へ
もちろん時代とともに対象年齢を柔軟に変えていくのは、他のアニメ作品においても数多く見られます。
例えば、同じ東映アニメーション作品では、2021年に公開された映画『劇場版 美少女戦士セーラームーンEternal』、それからプリキュアシリーズの前々作に当たり、当時子どもに大人気だった『おジャ魔女どれみ』シリーズ(1999年から2003年まで4シリーズにわたりテレビ朝日系で放送)も、主人公の“春風どれみ”たちではなく、アラサー女性の交流を主軸とした映画『魔女見習いをさがして』を打ち出し、かつてのおジャ魔女どれみ世代の大人を映画館へと誘いました。
プリキュア映画もこれらと同様に、「かつてプリキュアを観ていた女の子」にも向けたコンテンツ展開のフェーズに入ってきているのではないでしょうか。
これまでは「未就学児+その保護者」をターゲットとしていたプリキュアシリーズは、
1、現行放送のアニメは「未就学児だけではなく小学生」への拡大
2、プリキュア映画は「かつてプリキュアを見ていた大人世代」へも訴求
と、ターゲットの拡張が行われてきているわけです。
全盛期の半分にまで落ち込んだ売り上げの回復へ
子どものテレビ離れや、スマートフォンアプリや動画サービスの隆盛など、未就学児の趣味の多様化に加え、同じテレビアニメでもタカラトミーアーツの「プリティーシリーズ」やサンリオの女児向けアニメ、さらに女児向け実写コンテンツ「ガールズ×戦士シリーズ」などの台頭もあり、もはや女の子向けコンテンツはかつてのような「プリキュア一強」時代ではありません。
東映アニメーション株式会社のIR情報をみても、「プリキュアシリーズ」の国内版権売り上げは、2010年度の全盛期には12.52億円もあったのが、2020年度には6.35億と、全盛期の約半分(50.7%)にまで減少していることも事実です。(もちろん、2020年度は新型コロナ禍の影響も無視できませんが)
プリキュアはこの先2023年に、「プリキュア20周年」を迎えます。
かつて2018年の「プリキュア15周年」時には、当時の最新シリーズ『HUGっと!プリキュア』内で大きなプロモーションがかけられ各所で話題となり、売り上げを伸ばした前例もあります。
この先「プリキュア20周年」に向けて、さまざまな動きが活発になっていくものと思われます。
少子化などの影響も当然あり、売り上げ維持のためにはプリキュアも、これまでの未就学児だけではない、ターゲット層の拡大は急務なのかもしれません。
ただ、大人へとターゲットを拡大していくためには、まずは「しっかりとした子ども向け作品を作る」ことが大切なのではないかと筆者は考えます。
「大人になってプリキュアに帰ってくるファン」は、子ども時代に観たプリキュアが心に残る楽しい作品だったからこそ帰ってくるのですから、まずは「現行作品」をしっかりと今の子どもたちに向けて作っていくことこそが肝要なのです。
2021年放送の『トロピカル~ジュ!プリキュア』は、“今の子どもたち”に向けて、本当に楽しくしっかりと作られた作品なので、なんの心配もいらないとは思いますけどね。