season19の撮影がそろそろ始まるとされる『相棒』(テレビ朝日系)で、特命係の刑事・杉下右京を演じる水谷豊はすでに68歳である。このように、定年(60歳)となる年齢をとっくに過ぎた俳優が、当たり役の刑事をいつまでも演じるというケースはよくある現象だ。
2017年に他界した渡瀬恒彦は、72歳まで『警視庁捜査一課9係』(テレビ朝日系)で9係の係長(警部)を演じていた。『はぐれ刑事純情派』(テレビ朝日系)が終了した際、主人公の安浦刑事役の藤田まことは76歳だった。
しかし、これらを激しく上回るモンスター的存在がいる。2020年7月に新作が放送されたばかりの『おかしな刑事』(テレビ朝日系)に主演した伊東四朗だ。伊東はおそらく史上最高齢の現役刑事俳優であり、放送時点で83歳だった。
警察官の定年は60歳である。伊東も80代にしては若くて元気だが、定年間近だという設定にしても、さすがに50代には見えない。ちなみに、2020年8月現在、リアルに59歳の俳優は佐藤浩市、哀川翔、柳葉敏郎あたりだ。
このように、刑事役に限らず、テレビドラマや映画で、演者の実年齢を考慮しないキャスティングがなされることが頻繁にある。ここでは、そのなかでも、特に“考慮しなさすぎ”の例をいくつか挙げていきたい。
三十路直前で女子高校生を演じた元AKB
以下、年齢は原則的に、映画の公開時、テレビドラマの放送開始時点のものとする。まずは、20代になってからも制服を着て現役高校生役を演じた女優をピックアップしよう。
『orange』(2015年)、『青空エール』(2016年)、『PとJK』(2017年)など、20歳を過ぎても映画での高校生役が多かった土屋太鳳は、『トリガール!』(2017年)という映画でようやく大学生を演じることになった。ところが、2018年の映画『となりの怪物くん』『春待つ僕ら』、ドラマ『チア☆ダン』でまた高校生に戻ったのだった。彼女が最後に高校生を演じたのは23歳。現役で進学ならば大学を卒業している年齢だが、実は、23歳というのはまだまだ若い部類だ。
乃木坂46の白石麻衣は、高校生役を演じた映画『あさひなぐ』(2017年)公開時に25歳だった。ほかにも、『今日、恋をはじめます』(2012年)の木村文乃、 『ヒロイン失格』(2015年)の桐谷美玲 、『ピーチガール』(2017年)の山本美月 、『覆面系ノイズ』(2017年)の真野恵里菜など、25歳で現役高校生を演じた女優はゴロゴロいるのである。
それを上回るのは長澤まさみだ。彼女は映画『コンフィデンスマンJP プリンセス編』で33歳にして高校生風の衣装を着ているが、そのことを指しているのではない。26歳のときに、映画『潔く柔く』(2013年)で、ガチな現役高校生役に挑んだ実績があるのだ。友人役の岡田将生、波留、中村蒼と比べても、長澤だけが突出した年長者だった。
だが、それが最高齢レコードではなく、さらにその上がいる。映画『リアル鬼ごっこ』(2015年) 出演時の篠田麻里子はなんと、AKB48卒業後で、すでに29歳だった。そんな彼女が高校生を演じるというこのキャスティングが成立したのは、園子温監督が手掛けた『リアル鬼ごっこ』が、むしろ“リアル”ではなく、非現実的な内容の作品だったからかもしれない。
Hey! Say! JUMPメンバーは27歳で高校生に
現役男子高校生を25歳を過ぎた男優が演じた例もある。若き日の舘ひろしが、映画『暴力教室』(1976年)で不良高校生を演じたときは26歳で、教師役の松田優作と同い年だった。
佐藤健は映画『いぬやしき』(2018年)は28歳のときに高校生を演じている。Hey! Say! JUMPの伊野尾慧が前述の映画『ピーチガール』に高校生役で出演したときも27歳だった。つまり、相手役の山本美月とは27歳と25歳の高校生カップルだったのだ。
その伊野尾を凌駕するのが小栗旬だ。小栗は映画『信長協奏曲』(2016年)で主人公の高校生を演じているが、当時はすでに34歳。これは開き直りの世界なのだろう。
菅原文太の妹役は27歳も年下という強引配役
親子、夫婦、兄弟姉妹を演じる俳優同士の年齢が、近すぎたりと、離れすぎていたり、ありえない年齢差であることがある。
まず、近すぎる例から。『必殺』シリーズ(テレビ朝日系)で、主人公の中村主水(藤田まこと)をイビる義母役の菅井きん(1926年生まれ)と、その娘(主水の妻)を演じた白木万理(1937年生まれ)は、実は11歳しか離れていなかった。
『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)で、父と娘を演じた宇津井健(1931年生まれ)と長山藍子(1941年生まれ)の年齢差は僅か10歳。何しろ、宇津と長山は過去に別のドラマでは夫婦を演じたこともあるのだ。
離れすぎている例もなかなか強烈だ。1979年に始まった刑事ドラマ『西部警察』(テレビ朝日系)では、渡哲也(1941年生まれ)演じる主人公の刑事・大門圭介は、妹と2人暮らしという設定だったが、その妹を演じた古手川祐子(1959年生まれ)とは18歳も年齢差があった。
同じように、刑事が妹と2人で暮らしている設定なのが、1981年に放送された『警視庁殺人課』(テレビ朝日系)だ。こちらははさらに無理があった。兄妹を演じた菅原文太(1933年生まれ)と里見奈保(1960年生まれ:現・鶴田さやか)は27歳も離れていたのである。
長女と末っ子の年齢差53歳というありえないドラマ
ただ、『警視庁殺人課』での27歳差の兄妹というのは100%あり得ないとは言い切れないだろう。だが、「いくらなんでも、ナシでは?」と思われる、おそらくテレビドラマ史上もっとも年齢設定に無理があった作品が、2001年に放送された浅野温子主演の『マリア』(TBS系)だ。
『マリア』は、浅野が演じる主人公を含む5人姉妹の人間模様を描いているのだが、それを演じた女優の年齢差が大胆に開きすぎているのだ。
5人姉妹は、長女=岸恵子(1932年生まれ:68歳)、次女=岡江久美子(1956年8月生まれ:44歳)、三女=浅野温子(1961年3月生まれ:40歳)、四女=菊川怜(1978年2月生まれ:23歳)、五女=後藤真希(1985年9月生まれ:15歳)というメンバーだった。
それぞれ確認していくと、まず、長女の岸と次女の岡江は24歳差と母娘の年齢差がある。次女の岡江と三女の浅野だけは4歳差と姉妹として現実的だが、浅野と四女の菊川に17歳差があり、さらに菊川と後藤は8歳も離れていた。長女の岸と五女の後藤にいたっては、母と娘どころか祖母と孫のレベル、驚愕の53歳差だったのだ。
ドラマや映画はあくまで虚構の世界である。演者の年齢にツッコむのは野暮だという意見もあるだろう。ただ、だとしても、『マリア』は、やりすぎだったのではないだろうか。