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『おんな城主 直虎』、命の軽さと懸命な生き様をバランスよく描くも視聴率は横ばい

文=吉川織部/ドラマウォッチャー

 リアルといえば、『直虎』にはただ悪いだけの悪役が出てこないことにも触れておきたい。いやいや、政次を陥れた近藤や気賀の民を皆殺しにした酒井忠次(みのすけ)は悪役ではないかという声もあるかもしれないが、彼らも「やらなければやられる」「取れるものは取れる時に取る」という戦国の常識に従っただけで、ことさらに悪人なわけではない。むしろ、非情になり切れなかったり相手のことを信用しすぎたりすると自分たちの命が危ないのが戦国である。特に忠次については、考えが甘い家康の代わりに汚れ仕事を自ら引き受けているという面が大きいように思われる。

 たとえば今回、忠次は今後の武田との関係について「何とかなるのではないか」と楽観視する家康を「やれやれ……」とでも言いたげな目で見ていたたが、これは直虎と政次で何度も見た構図である。ここで視聴者は「忠次は徳川家において政次と似たような役目なのだ」と気付く仕掛けだ。井伊家にとって許しがたい人物であることに変わりはないが、視聴者視点では忠次に少しばかり同情も覚えてしまうような描き方となっている。

 このように、善悪の色分けではなく、各々が自分の立場で懸命に生き残りをかけて奮闘した結果としての戦国時代を描く手法には好感が持てるし、視聴者も徐々に「何があっても戦国の世の習いだから恨みっこなし」という戦国的価値観に染められているような気がする。おそらくこれは、そうした価値観を共有していなければ今後の展開が理解できないという伏線にもなっているのだろう。次週は、井伊家にも徳川家にもそれぞれ大きな出来事が起こりそうだ。両家の戦国サバイバル劇を引き続き見守りたい。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)

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