テレビ出荷台数、業界予想の半分に…4Kは当初予想の3割、全視聴履歴取得で革命
さらに同社の調査では、事前に性別・年齢・主にテレビを見る人などの属性を聞いている。デモグラフィック別に、視聴動向が把握できるようにもなっている。そしてシングルソースパネルになっている点が大きい。時系列でテレビ視聴がどう変化しているか追跡できる。しかも分母が膨大なため、複数の番組の視聴関係が詳細に追える。たとえばアニメ好きな家庭でよく見られるドラマは、どんなタイプが多いのか。サスペンスドラマをよく見る家庭で、よく見られるバラエティは何かなどを、複数の番組を掛け合わせて分析できる。
地上波からBSへの遷移など、メディアをまたぐ関係も見えるようになる。たとえばBSを見ている家庭でよく見られる地上波番組は何かを、浮かび上がらせることができる。BSへ誘導する際の番宣は、どこで放送すれば効果的かが見えるのだ。これまでのサンプル調査でこうしたクロス集計をすると、結果は数世帯程度となり、統計の信頼性に問題があった。ところが分母が数十万規模になると、クロス集計をしても数百から数千の該当世帯が出るようになる。傾向が正確に把握できるようになったのである。
マーケティングへの応用
ログ分析では、マーケティングへの応用も始まっている。HAROiDは今年、総務省の「ブロードバンドの活用による放送サービスの高度化に向けた技術等検証」事業で、静岡第一テレビと共同で実証実験を行った。視聴ログをマーケティングに活用する取り組みだ。
番組やCMの関連データと各種視聴者データとを組み合せて分析することで、サンプル家庭をセグメント化する。そのセグメントごとに、情報や広告の提供を別々に行い、効率的で最適な情報配信が行えるというものだ。
たとえば、視聴データからスイーツ好きの世帯を割り出す。根拠は情報番組などでスイーツを扱うコーナーを見ているか否かなどだ。次に該当視聴者宛のDMで、北海道フェアのスイーツ特集を送付した。その結果、ターゲットを絞り込まない従来のDMよりも、スイーツ好きと位置付けた世帯からのレスポンスが格段に高くなった。
他にも、野球中継とサッカー中継のどちらを多く見ているかを判定し、結果に沿ったマーケティングを仕掛ける。商品によって購買率が変動するのが見えるようになる。CMでもどんなタイプをよく見ているかで判定すれば、ターゲットの絞り込みの精度は上がっていくだろう。
テレビは国民1人平均で3~4時間も見ているメディアだ。リーチ力ではどのメディアより桁違いに勝る。その強いメディアへの接触の仕方には、本人の志向・嗜好が色濃く反映されてしまう。こうしたデータが数百万から1000万以上になり、しかもPCやスマホなどでのデータとリンクできるようになると、屈強なDMP(Data Management Platform)が出来上がる。
現状ではまだ200~300万台にとどまるネット接続テレビのログ分析だが、今後確実に絶対量が増えていくだろう。このビッグデータを前提にターゲットの絞り込みを行っていけば、マーケティングの上で強力な武器になっていくだろう。ここ数年、インターネットに押され気味だったテレビが、ログ収集で挽回する可能性が出てきたのである。
(文=鈴木祐司/次世代メディア研究所代表)