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鈴木祐司「メディアの今、そして次世代」

連ドラ、全話ネット無料放送が一般化か…フジ『明日の約束』視聴率爆増の「隠れた仕掛け」

文=鈴木祐司/次世代メディア研究所代表

 例えば初回のエンディングは吉岡圭吾の自殺だった。これを受けた1.5話は、『吉岡圭吾-最後の一日-』というタイトルで、自殺までの足取りを紹介した。自殺の謎を解く要因や布石が散りばめられているので、これを見ることで2話の理解を促進するだけでなく、その後の展開にもつながるような工夫がなされていた。

 圭吾自殺直後の周囲のリアクションを描いた2話を受けた2.5話は、『田所那美-彼女の明日-』という物語。圭吾と同様にいじめを受けていた女子生徒の物語で、圭吾と関わることで状況を大きく変えていた。やはり3話やそれ以降の展開に多くの示唆を残す出来だった。3.5話『小嶋修平-ゲスの極み記者-』、5.5話『居酒屋にて-現場教師たちの苦悩-』、6.5話『ある男性教師の受難』などは、『明日の約束』に関わる大人たちの裏の顔が紹介された。複数の人々が表の顔で動くことで物語は展開しているが、その背景を描くことで問題の深刻さが理解できるようになっていた。

 さらに4.5話『三人-過ぎ去りし日々-』と7.5話『私の声は届かない』は、香澄(佐久間由衣)が最後に襲おうとしている人物への布石となった。そして最終回直前の9.5話『藍沢日向-記憶-』は、主人公・日向(井上真央)と毒母・尚子(手塚理美)との間で交わされた「明日の約束」ノートの内容を明かした。毒母の抑圧のなかで、日向がどこまで自立し、どこでけじめをつけられずにいたのかが見えるようにできていた。

 これが最終回の展開に反映され、チェインストーリーを見た人は、放送されたドラマの奥行を堪能できるようになっていた。つまり同ドラマは“テレビ×ネット”で内容に重層性を持たせ、緻密な構成を可能にしていたといえよう。

ビンジ・ウォッチの可能性

 さらに同ドラマは、7話放送直後から全話の見逃し配信に踏み切った。「binge-watch(ビンジ・ウォッチ)」とよばれるドラマの一気見を可能としたのである。米国のNetflixが急普及した要因の一つで、オックスフォード辞典に17年新たに収録されたほど、こうした見方をする人がいま増えている。これらの取り組みが奏功し、7話で4.3%だった視聴率は8話で6.0%と4割も改善した。

鈴木祐司/メディアアナリスト、次世代メディア研究所代表

鈴木祐司/メディアアナリスト、次世代メディア研究所代表

東京大学文学部卒業後にNHK入局。ドキュメンタリー番組などの制作の後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。メディアの送り手・コンテンツ・受け手がどう変化していくのかを取材・分析。特に既存メディアと新興メディアがどう連携していくのかに関心を持つ。代表作にテレビ60周年特集「1000人が考えるテレビ ミライ」、放送記念日特集「テレビ 60年目の問いかけ」など。オンラインフォーラムやヤフー個人でも発信中。
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Twitter:@ysgenko

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