反権力ニュースサイト「TABLO」編集長が、人間社会の深層に切り込むオトナのための映画を紹介します。
ヤクザと交流があった時代だからこそのリアルさに迫れるのか?
キャストは豪華。それぞれが演技に対して100%の力を出したのではないでしょうか。
『仁義なき戦い』(東映)でもなく、『アウトレイジ』(ワーナー・ブラザース映画)でもないヤクザ映画『孤狼の血』(東映)。キャストが広島弁で話すところは、どうしても『仁義なき戦い』を想起させます。
40年以上も前に公開された 『仁義なき戦い』以上のヤクザ映画は、今後もまず出てこないかもしれません。「あのリアルさ」は、実際に出演者が山口組をはじめとして、現役のヤクザと交流をもっていたからにほかなりません。それが現在は、暴力団対策法、暴力団排除条例などが施行され、ヤクザと接するだけで罰せられる可能性が出てしまいます。そんな時代の中でつくられた『孤狼の血』が、金字塔に迫ることができるか--。そんな思いで映画館の席に座りました。
つい先ほど、『孤狼の血』を「ヤクザ映画」と表現しましたが、実際には「警察映画」として見たほうがいいもしれません。悪徳刑事役を務める役所広司の渾身の演技。そしてそれに対抗する、若い正義感に燃える刑事役・松坂桃李の落ち着いた演技が主軸となって物語は展開されています。
舞台は昭和63年の広島。松坂桃李が新しく赴任してきた警察署で、役所広司は「ヤクザにたかる、ぶん殴る」「組事務所ででかい顔をする」などの横暴さ。「警察官とヤクザがこんなに密接でいいのか」。松坂桃李は悩み、疑問に思います。というように、「役所広司刑事」の振る舞いがとりあえずひどい。反社会的勢力に対する社会の目も、警察の不祥事に対する内外の目も厳しくなった現在のような状況では考えられない有り様です。
ひとつ脚本に苦言を呈すと、ヤクザ取材や警察取材などをしているような筆者としては、なんとなくヤクザ同士の構図がわかるのですが、初めて見た人はちょっとわかりにくいかもしれません。広島のヤクザ事情を多少なりとも理解していないと、少し複雑で物語が十分に楽しめないかもしれません。
アウトローを演じる荒々しい俳優たちに交じって、真木よう子の妖麗さがいいです。真木よう子はクラブのママ役ですが、『さよなら渓谷』(ファントム・フィルム)やテレビドラマ『MOZU』(TBS系)で見せた独特の無表情さプラス、「一筋縄ではいかない感」を醸し出していました。いい女優なのに、ツイッターやクラウドファンディングで下手をうってしまったのは寂しい限りです。真木よう子を煽った黒幕の編集者は、よくない仕事をしたものです。
話がそれました。僕は脇役が好きです。『アウトレイジ』だと塚本高史。いい感じのチンピラ感を出していました。『孤狼の血』では中村倫也。こちらもチンピラ役ですが、チンピラなりの意地を見せていました。塚本高史のチンピラとはまた違ったカッコよさを出していました。注目したい役者です。
役所広司、松坂桃李を中心とストーリーは展開されていきますが、このように周囲を彩る脇役の演技にもぜひ注目していただきたいです。
暴対法、暴排条例が施行された現在、役所広司の捜査はとてもじゃないけど無理筋だが、このくらいバカな刑事がいないと、ヤクザと丁々発止はできないのかもしれません。いや、やっぱり悪徳刑事なんじゃないかな。刑事は正義を遂行すべきと言っておきます。そして、最後にドンデン返しが来ます。
役所広司は果たして、悪なのか善なのか――。それがこの映画の最大のテーマです。
(文=久田将義/TABLO編集長)