MXテレビ都議選特番、池上彰の破壊力生かせず…味わい深いニッチ&サブカル感が“惜しい”
主要なテレビ番組はほぼすべて視聴し、「週刊新潮」などに連載を持つライター・イラストレーターの吉田潮氏が、忙しいビジネスパーソンのために、観るべきテレビ番組とその“楽しみ方”をお伝えします。
TOKYO MXテレビ(以下、MX)の健闘を称えたいのだけれど、やっぱり圧倒的な“差”が出てしまった。
6月23日夜の東京都議会議員選挙の開票速報は、NHKとMXが放映していた。NHKの『東京都議会議員選挙 開票速報』は安定感抜群の武田真一アナをメインに、人海戦術が可能なNHKならではの確実&隙のない開票速報だった。一方、MXの『首都決戦2013 池上彰の都議選開票速報』では、満を持して池上彰が登場したのだけれど、池上さんの破壊力が存分に発揮されたとは言い難い内容だったのである。
何がダメって、中継システムの脆弱さ。各党の幹事長や選対委員長にインタビューする際、池上さんが直接質問できないという致命傷。自民党の石破茂幹事長にはかろうじてダイレクトに質問を浴びせられたのだが、みんなの党の渡辺喜美代表や浅尾慶一郎政調会長に対しては、現場にいる記者が池上さんの質問を短縮して聞くというスタイル。それじゃ、池上さんの“本意と悪意と毒と愛”が伝わらないじゃないか。池上さんがこっそり皮肉をつぶやくも、現場の記者はそれをいちいち伝えるわけにもいかないだろうし。インタビューされる側も怪訝な顔つき。池上さん本人も忸怩たる思いだったようで、「中継システムの関係で、視聴者の皆さんももどかしいとは思いますが」と何度も言っていた。
テレビ局のことはよくわからないけれど、こんなに間抜けなことはない。この時代に中継で直接質問できないって、どういうこと? 直接テレビ電話で話したほうがいいのでは? と思ったほど。この残念感、これがMXである。
まあ、人員にも機材にも限界はある。民放キー局ですら、ときどき「人手が足りないんだな」と感じさせられることがあるのだから。むしろ池上さんにオファーして、出演してもらっただけでも頑張ったと思う。
独特の“脱力感”
そして、MXならではの独特の味わいもあったので、そこは褒めておこうと思う。開票速報なので、投票数の動きや当確などの情報が逐一画面上に出てくるのだが、その区になぜかキャッチコピーをつけて紹介していた。各区の短い紹介文なのだが、あまりにニッチな、“脱力感”あふれるものだったのだ。さすがは池上さんで、放送中にそこも言及していたのだが、これぞMX。“プライドの高いキー局”や、“皆様のNHK”には決してできない、サブカル感覚。一部を紹介しておく。
「荒川には接してない」(荒川区)
「神奈川県ではありません」(町田市)
「伊豆七島ではなく9島ある」(島部)
これを観た時、思わず大笑いしてしまった。池上さんのツッコミもきちんと入っていたのだが、よりによって選挙速報にこのネタ!? また、「ハチ公像は生存中に設置」(渋谷区)、「アニメ制作会社が70社」(杉並区)など、どうでもいいけど「へえ~」という情報も満載。ネタに尽きたのか、「寅さんと両さんと翼」(葛飾区)、「ジブリ美術館と天文台」(三鷹市)、「競馬・競艇・ラグビーも」(府中市)と連呼系も。「府中の刑務所はさすがに入れないんだなぁ」とひそかに思ったりして。なんとなく切なかったのは、「人口密度日本一」(豊島区)、「高齢化率NO.1」(北区)だった。心にほんのちょっと隙間風が吹いた瞬間。ひゅぅぅ。
今回の都議選は東京を離れるため、期日前投票を済ませておいたのだが、この速報だけは観たいと思っていた。早めに帰ってきて正解。毒舌池上さんに対する我々の期待、池上さん本人の忸怩たる思いは、7月に予定されている参院選報道でぜひ昇華させてほしい。
(文=吉田潮/ライター・イラストレーター)