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『あまちゃん』制作の黄金チームの『いだてん』、回復不能なほど低視聴率に喘ぐ理由

文=深笛義也/ライター
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 金栗四三の出身地の熊本方言の「とつけむにゃあ」。とんでもない、という意味だが、画面いっぱいの文字とともに頻発する。「あまちゃん」の、じぇじぇじぇ効果を狙っているのかもしれない。『いだてん』もダイジェスト放送をすることで、視聴率回復という望みは考えられないのだろうか。

「春休みくらいにダイジェストをやる、ということは考えられます。だけど『いだてん』はドラマの構造自体が複雑なので、その解決が難しい。私が編成にいた時に、NHKを見てくれない若い人たち向けに、NHKの多くの番組を5分以下のミニ動画にしてネットに配信したことがあるんです。5分でわかる大河、5分でわかる朝ドラ、ってやったんです。NHKスペシャルも5分間の『Nスペ5ミニッツ』というのをつくりました。

 それと同じ発想で、1つのロケでつくり上げた材料で2つの番組をつくるということを、現場にいた頃から主張していたんです。『いだてん』だったら本編とは別に、たとえば金栗四三物語で60分1本つくる、嘉納治五郎物語で60分1本つくる。たけしが喋ると逃げちゃう人も多いかもしれないけど、森山未來が好きだっていう人もいるでしょうから、若い頃の志ん生を中心に1本つくる。

 さらに、明治の日本橋、昭和の日本橋、現在の日本橋というかたちで、日本橋の100年というのをつくればいいんですよ。せっかく、あれだけのセットをつくったんだから。ドラマの中の昭和の日本橋の場面で、空中に道路がつくられてそこを車が走るっていうことが夢のように語られていますけど、今になって歴史的に由緒のある日本橋の上に高速道路なんかつくって景観を損ねたということで、地下を走らせようという計画が立てられているわけじゃないですか。そういう意味では、問題意識がちりばめられていて、そこはさすがだと思います。

『国家を背負ってなんて、走りたくない』みたいな、オリンピックへの批判的な視線も垣間見えます。そういうところを活かして、自殺してしまったマラソンランナーの円谷幸吉の話と絡めてミニ動画をつくってもいい。そういう因数分解したさまざまな作品とかミニ動画をバーッと並べて、クドカンワールドの難しさに耐性をつくってあげるというのも、視聴率1桁で終わらないための努力としてはあると思います」

視聴者を取り残された気持ちに

 志ん生が主要登場人物であるから当然だが、落語ネタがちらほら出てくる。落語好きならば、吉原で遊んだ後に棺桶の話が出てくれば「ああ、あの話だ」とわかり、ドラマのこの展開は落語の「付け馬」の翻案なのだなとわかる。知らなければ取り残された気持ちになる。「芝浜」についても同様だ。

「世の中で寄席に行ったことのある人は、1割もいないと思うんです。そういう意味では、けっこう狭いところ狭いところを攻めてきているわけです。あんなに膨大な番宣をやったくらいなんだから、『芝浜』とか『付け馬』を年末年始にやっときゃよかったんですよ。それを、番宣見え見えにせずに、今、寄席が若い人たちで賑わっているみたいなかたちでやっておけばよかった。

 日本橋の100年というのも『いだてん』を見させようというスケベ根性を捨てて、時代の変遷で日本人の価値観が変わって、夢の高速道路のはずが今は邪魔になっているという社会問題としてやっておけばよかったんです。そういう布石を打っておけば、ドラマを見た人は『あれ? これってどこかで見たな。俺知ってるぜ』という感じで親しみが湧きますよね」

 中村勘九郎は2月17日、北九州マラソン2019でスターターを務め、「金栗先生のお言葉“体力・気力・努力”でがんばってください!」とランナーたちに声援を送った。視聴率回復の試みだったのかもしれないが、この日の放送も低視聴率を更新した。アッと驚くような思いもつかない企てで、視聴者を取り戻してほしいと願うばかりだ。
(文=深笛義也/ライター)

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