なぜ不起訴処分とされたのか
――あまり語られませんが、もうひとつ重要なポイントがあるように思われます。昨年12月8日に起こったとされる暴行事件の加害者だとされる男性2人は、新潟県警によっていったんは逮捕されつつも、結局その後不起訴処分になっています(NHKの報道によれば、暴行は否認したという)。不起訴であるためその処分理由は明らかになってはいませんが、このことをどう考えればよいのでしょうか。
河西弁護士 一般的には、客観的な証拠のある暴行事件で、通常逮捕された後に不起訴になることはあまりありません。不起訴になった理由としては、被害届の取り下げがあった可能性が考えられます。私は第三者委員会の報告書を読みましたが、もしかりに被害届が取り下げられたのだとしても、被害者である山口真帆さんだけの意志でそうされたとは考えにくいですね。
被害届が取り下げられたのだとして、では、被害届の取り下げは誰にとってメリットがあったのか。たぶん取り下げてほしい人がいたのでしょうが、それが誰かはわかりません。起訴されることで加害者側に関する新たな事実が出てきてしまう可能性もあったわけですが、それも含めてわかりませんね。
――5月3日には山口真帆さんが有料会員用のメールサービスにて、AKBグループの総合プロデューサーを務める秋元康氏への“感謝”をつづったことが話題となりました。一方でその直前の5月1日、AKSが、上記の通り不起訴となった加害者とされる男性2人を提訴したとの報道がありました。詳細は明らかになっていませんがこれは、逮捕後の不起訴で刑事司法手続き上は“沙汰止み”となってしまったこの男性らの責任を、民事訴訟で追及していくというAKS側の意志が背景にあると見てよいのでしょうか。
河西弁護士 それもあるでしょう。AKSに対する批判については一向に収束する様子がないこの状況下で、AKS幹部が入れ替わったタイミングでの訴訟提起、という感じなのでしょうが、裁判は泥沼化する可能性も十分にあります。なぜならこの裁判で、原告は山口さん本人ではなくAKSです。そうするとAKS側は基本的に、「暴行により山口さんに生じた損害」ではなく、「AKS自身に生じた損害」を立証しなければならない。しかし、AKSに生じた業務上の支障やイメージ低下については、そもそもAKS自身の管理体制やAKS所属の他メンバーにその原因があったのではないか……と男性らから反論される可能性は十分にあるでしょう。そして「AKS側に生じた損害」が立証できなければ、暴行事件が起こった事実はあったのだとしても、AKS側の請求は棄却されゼロ円……ということだってあり得ます。
メンバー間の信頼関係こそ重要
――結局、NGTの運営側はなぜ毅然とした態度を取っていない、あるいは取れないでしょうか?
河西弁護士 一部でまことしやかに語られていることですが、運営側とファン側の癒着疑惑が背景にあるのかもしれません。その疑惑について運営側はなんら切り込んだ回答をしていませんが、これには疑問が残りますよね。かりに運営側とファンの側に癒着があったのだとすれば、それは非常に大きな問題ではないでしょうか。かりに癒着があったとすれば、そのメリットとして考えられるのは、ファン側が劇場側に大量のお金を落としてくれることではないでしょうか。もしもそういう関係ができていたのだとすれば、確かに運営側は、今回の事件について徹底的な調査などできないでしょうね。もちろん、仮定の話ですが。
――先ほどおっしゃった「過度な競争システム」を是正するには、どんな方法が有効なのでしょうか?
河西弁護士 そこは、私はあくまでも弁護士なので、なんとも……(笑)。ただ、再度モーニング娘。を例に挙げると、彼女たちがこれだけ長く愛され続けていることの要因は、メンバー間の協力関係や、グループや仲間に対する信頼にあるのではないかと思っています。もちろんメンバー同士は友達ではない。しかし「自分だけが一番になりたい」という単純な関係ではなく、たとえ直接的なファン人気は少なめでも、それ以外のさまざまな役割をメンバーたちが担うことが可能なチーム編成となっている。そういった意味で、メンバー同士、さらにはグループそのものに対する信頼というのは、やはり非常に重要なポイントではないでしょうか。
(構成=編集部)