ジャニーズ、週刊文春へ法的措置の2つの理由…ジュリー社長の逆鱗に触れた報道内容
ジャニーズ事務所が10日、「週刊文春」(文藝春秋)への法的措置を検討しているというコメントを発表した。同社の藤島ジュリー景子社長(56)が、10月いっぱいで退社した滝沢秀明氏(40)と来年5月にメンバー3人が脱退するKing&Princeとの間で確執があったという報道に対するもの。
10日発売の「文春」は『キンプリ滝沢秀明を壊したジュリー社長“冷血支配”』という見出しで、ジュリー社長と滝沢氏との不仲や、11月4日に平野紫耀、岸優太、神宮寺勇太が脱退すると発表したKing&Princeのメンバーに対して面談でさじを投げる言葉をぶつけたなどと報じた。同事務所は「事実と全く異なる虚偽の内容を多々含む記事であり、法的措置を検討しております」としている。
スキャンダル記事でもない報道に反論するというのは、それだけジャニーズ事務所が世論に神経を尖らせているということの証明だろう。滝沢氏が退社し、キンプリの一部メンバーが脱退するという出来事は、それだけ大きなインパクトがあったということだ。
滝沢氏の退所をめぐっては各メディアが報道合戦を繰り広げてきた。『滝沢秀明氏と現社長のビジネス方針に乖離が…ジャニーズを揺るがす“退社ドミノ”の懸念』(日刊ゲンダイ)とジュリー社長との確執を報じるメディアもあれば、『滝沢秀明 電撃退社の陰にスパルタ指導の闇…演出舞台で後輩が疲労骨折、スタッフも白髪だらけに』(女性自身<光文社>)と滝沢氏にも問題があるかのように報じる記事もいくつか出ている。ジャニーズ事務所周辺からさまざまな情報が出ていることをうかがわせる。
Travis Japanを世界デビューさせてジャニーズでの生活に区切りをつけた滝沢氏。それは恩師であるジャニー喜多川元社長への義理を果たしたということだったはずだ。日系アメリカ人として生まれたジャニー氏の海外進出へのこだわりは強く、「アメリカ(ビルボード)で1位をとることは不可能じゃない」とも口にしていたという。
タッキーの愛称で親しまれてきた滝沢秀明氏。彼は今後どうするのか。
「Twitterを始めたことが話題となっていますが、やはり世間から忘れられないための一手であったと思われます。スポニチアネックスが『滝沢秀明氏 新たな夢へ動く…新会社設立 潤沢ドバイマネー 富豪第4夫人の日本人女性らがサポート』という観測記事を出しましたが、関係者によれば『今はドバイとの関係は切れており、そうならない可能性が高い』といいます。いずれにせよ芸能界や経済界にも豊富な人脈を持つタッキーの今後にメディアは注目しています」(芸能記者)
ジャニーズ事務所の圧力に負けずに芸能界の仕事を継続していくのか。それとも知名度を活かしてなんらかのビジネスを手掛ける実業家となるのか。滝沢氏の身の振り方にも注目が集まるところだが、ひとついえることは、滝沢氏の退所は決して「円満退社」ではないということだ。じっさいに滝沢氏サイドは弁護士を立ててジャニーズ事務所とやりとりをしている。何らかの確執があったことは容易に想像できる。
カレンダービジネス
一方でジャニーズ事務所は、なぜ「文春」に対して法的手段をチラつかせたのか。ジャニーズ事務所が「文春」を目の敵とするには2つの理由がある。
ひとつは、「文春」はジャニー氏のセクハラ疑惑を長く報じてきたが、版元の文藝春秋はアイドル雑誌や写真集のビジネスをほとんど手掛けていないため、芸能事務所に忖度せず報道ができるという強みがあること。例えばテレビ、スポーツ新聞ともにジャニーズを批判できないという体制があるが、じつは出版社にも同じ弱みがある。
そのひとつがジャニーズグループのカレンダービジネスだ。多くの出版社が手掛けているが、毎年ジャニーズ事務所からどのタレントを振られるかわからないというシステムになっている。ゆえに出版社側はよいタレントを振ってもらうために、顔色をうかがう、批判がしづらいというような弱みを抱えるのである。
そのなかでカレンダーとも無縁な「文春」が、ジャニーズ批判においては独壇場になっているという背景があるのだ。「文春」は長年、さまざまな問題を追及して、事務所とは因縁浅からぬ関係にある。
個人的な恨み
2つ目は、2016年のSMAP退所のときからの個人的な恨みである。当時、「文春」はSMAPのマネージャーである飯島三智氏とメリー喜多川元副社長・ジュリー氏との確執を報じた。記事の基本的な構図としては、飯島氏が力を持ちすぎることをメリー・ジュリーが快く思わずSMAP解散の引き金になったというものである。まさにSMAP解散とタッキー退所は同じ構図であるとも「文春」報道からは見えるのだ。さらに滝沢氏とジュリー氏の確執についても、退所前から「文春」はたびたび報じており、ジュリー氏にとっては気に食わない記事が多かったはずだ。
おそらくジャニーズ事務所はジュリー社長周辺についての記述を気にして、今回コメントを出したのだろう。実際、ジャニーズ事務所は「文春」の取材に対して、ことごとく否定の回答を行っている。記事から該当部分を抜粋する。
<「(滝沢が一年前に退所を伝えたのは)事実ではありません。(平野の面接をドタキャンし、九月にジュリー氏がキンプリを罵倒したのは)メンバー全員と面談したのは事実ですが、ご指摘のような事実・経緯ではありません。(ジュリー氏の娘は)デジタルネイティブ世代としてSNSに関する見方などを参考にすることがあります」>(「文春」<11月17日号>より)
「ジュリー社長は、ジャニー氏のスキャンダルには距離を置いてきて無関心だったといわれている。むしろジュリー社長が気にしているのは自分周辺のことを書かれること。特に今回は娘のことを書かれたことが、ジュリー社長の逆鱗に触れたといわれています」(芸能記者)
「文春」が発売された10日午後、各スポーツ紙が「ジャニーズ事務所、『週刊文春』に法的措置を検討」という記事を一斉に配信した。ジャニーズ事務所が各スポーツ紙の担当者に連絡を入れて共同歩調で書かせた記事だったことが想像されるが、それだけ事務所側の怒りは大きかったということなのだろう。
滝沢氏の退所が発表されたのは11月1日。週刊文春の記事はそれから9日後に発売されたものである。報道系メディアとしては最後発となる記事を、ジャニーズ事務所は最も警戒していたのである。
カリスマ亡きあと
ジャニー氏というカリスマ亡き後のジャニーズ事務所がどうなっていくのかは、組織論としても重要な示唆が含まれている。一般企業、同族企業に限らず、得てしてカリスマ後の後継者は同じようにカリスマであろうとする例が少なくない。しかし、カリスマが大きくした組織をさらに成長させるには、後継者はカリスマ然と振る舞うべきではなく、バランサーとして黒子に徹するべきという意見がビジネス界では多い。企業規模に応じて優秀な人材を活用してこそ、さらなる成長が望めるという考え方だ。
つまりジャニー氏時代のジャニーズ事務所と、今の事務所は企業規模も時代背景も違う。そうしたなかでジュリー氏的なやり方が適切なのか。ジャニー氏が亡くなって以降、山下智久、長瀬智也など10人ものタレントがジャニーズ事務所から退所しているのは“異常事態”だということは指摘できるだろう。
エンタメ界の巨人であるジャニーズ帝国。その中核をなすジャニーズ事務所は、このまま崩壊してしまうのか、またはトラブルをはね除けながら成長を遂げていくのか。その行く末については社会的な関心事となっていることだけは間違いないだろう。
(赤石晋一郎/ジャーナリスト)