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「ハードワークは善」は本当か? 加齢とパフォーマンス低下の最新研究

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※画像:『アスリートは歳を取るほど強くなる』(草思社刊)

 プロでもトップクラスの実力を持っていたあの選手が、ある時を境に成績を落としはじめる。故障知らずだったこの選手が、急にケガに悩まされるようになった。

 どんなスポーツでもあるこのような現象を目にした時、私たちが原因としてまず思い浮かべるのは、「加齢による衰え」だろう。

 一方で、スポーツ選手の選手寿命は延びている。

『アスリートは歳を取るほど強くなる: パフォーマンスのピークに関する最新科学』(ジェフ ベルコビッチ著、船越隆子訳、草思社刊)によると、1982年から2015年の間に、アメリカの4大スポーツの一つに数えられるNBAでは35歳以上の選手が2人から32人に増え、NHLは4人から50人に増えている。テニスでも、世界ランキングのトップ10に入る選手(男子)の平均年齢は、1992年から5歳も上がった。

 日本に目を移しても、同年代の選手が次々に現役を退くなかで、パフォーマンスを落とさずに第一線で戦い続ける選手は多い。「年齢が上がること」はそのまま「パフォーマンスが落ちること」に直結しない現実がある。

アスリートの加齢とパフォーマンス低下の関係とは

 それでは、年齢を重ねてもパフォーマンスを維持するためには、どんな考え方が必要なのだろうか?

 オリンピックで4個の金メダルを獲得したスプリンターのマイケル・ジョンソンは、「加齢による衰え」には故障が密接にかかわっているとしている。具体的には、年齢を重ねるごとに故障がひんぱんになり、治りも遅くなって、勝つために必要なコンディション調整が難しくなっていくという。

 人間にはダメージを受けた筋肉を修復する幹細胞があるが、本書では体のある個所について、この幹細胞がはたらいて筋肉や骨、腱、靭帯などを修復できる回数には上限があるという考えを紹介している。つまり、同じ組織が何度もダメージを受けると、完全には治りきらなくなってしまうということ。体の他の場所より先に、その個所だけが老朽化してしまうのだ。

「ハードなトレーニング」が故障を誘発する

 プレイヤー同士の接触や偶発的な事故を除けば、アスリートのケガのもとは「疲労」である。

 サッカーのロシア代表、韓国代表などで選手のコンディション調整を担当し、マンチェスター・シティFCの主任トレーナーも務めたレイモンド・フェルハイエン氏は、シーズン中の練習量を減らすことで、チームの故障者を減らすことに成功した。

 特に効果を発揮したのは、ベテラン選手だ。健康であればプレミアリーグでも屈指のフォワードだが、ハムストリングの故障が多くシーズンを通して活躍することができていなかったクレイグ・ベラミーは、試合出場を週に1試合に制限し、練習中のトレーニングを大幅に減らしたことで、いいコンディションをキープできるようになったという。

 故障を防ぐには疲労をためないこと。故障に弱く、回復も遅くなりつつあるベテラン選手にハードワークは逆効果なのだ。

 ただ、スポーツの世界にはびこっているのは、「ハードなトレーニングを重ねること」への信仰にも似た妄信だ。これは日本でスポーツを経験した人であればうなずける話だろうし、本書からは、アメリカやヨーロッパでも同様であることがうかがえる。

 そしてこれはプロスポーツの世界だけの話ではない。草野球やマラソン、テニスなどなど、趣味や体調管理の一環としてスポーツを続けている一般人も、競技を通して衰えを自覚しはじめると、トレーニング量を増やすことで克服しようという思考になりがちだ。これでは結果的に、ケガによってスポーツそのものができなくなってしまうことになりかねない。

 若い時には若い時の、年齢を重ねたらその年齢に合ったパフォーマンス維持の方法がある。大切なのは自分の体と向き合って、今の自分に合ったコンディショニング法を見つけること。加齢に逆らうのではなく、加齢を味方につけるコンディショニングだ。本書はそんなことを教えてくれる。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。

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