俳優の東出昌大さんが、自身の不倫が原因で妻の杏さんと現在別居生活を送っていると「週刊文春」(1月30日号/文藝春秋)で報じられた。
この夫婦は、NHKの連続テレビ小説『ごちそうさん』で共演し、理想的な夫婦を演じたことをきっかけに結婚したが、実生活はドラマのようにはいかなかったのかもしれない。あるいは、3人の子宝に恵まれたものの、杏さんが育児に忙殺され、“母”としての役割を果たされなければならなくなったため、東出さんが妻に“女”としての魅力を感じられなくなったのかもしれない。また、“世界の渡辺謙”の娘であり、実力も人気もある杏さんに対して、東出さんがコンプレックスを抱いていた可能性も考えられる。
それ以外にもさまざまな事情があったのだろうが、今回の不倫騒動の鍵になるのは、「反復強迫」だと私は思う。反復強迫とは、いつも同じタイプを好きになったり同じ失敗を繰り返したりする傾向であり、フロイトが見出した。
反復強迫
まず、杏さんは、子供の頃に父親の不倫がきっかけで両親が離婚し、母親に育てられたからこそ、自分は結婚して幸せな家庭を築きたいという願望が人一倍強かったはずだ。自分の両親と同じ道を歩みたくなかったのなら、浮気など決してしない誠実な男性を選ぶべきだったのに、なぜか父親と同じように妻を裏切る男性と結婚してしまった。
このように、「お父さんのように浮気する男とは絶対結婚しない」と思いながらも、父親と同じタイプと結婚するのは、反復強迫による。母親が父親のDVに苦しむ姿を見て育った娘が、「女を殴るような男とは絶対結婚しない」と思いながらも、DV男との同棲や結婚を繰り返すことがあるが、それと同じである。あるいは、ダメ男の父親を見て育った娘が、「ダメ男とは絶対結婚しない」と思いながらも、ダメ男ばかり好きになることがあるが、これも反復強迫だ。
一方、夫の東出さんにも、反復強迫が認められる。杏さんとの結婚は、『ごちそうさん』で夫婦役を演じたことがきっかけだが、不倫相手の唐田えりかさんと男女の仲になったのも、映画『寝ても覚めても』で恋人役を演じたことがきっかけだという。
もちろん、ドラマや映画での共演をきっかけに交際するようになり、ときには結婚にまで至るのは珍しいことではない。おそらく、世間で知られている以上にあるのだろうとは思う。
ただ、東出さんは、杏さんとの結婚前から共演した女優と浮名を流す“共演者キラー”として有名だったそうなので、共演者と恋に落ちることを繰り返してきたのではないか。これも反復強迫であり、今後も同じことを繰り返す可能性が高い。
もう1つの反復強迫は、この2人の夫婦関係である。東出さんは、不倫相手の唐田さんとの関係を妻の杏さんに問い詰められるたびに「今後はもう(唐田さんと)会わないし、連絡もしない」と約束しながら、結局自分のほうから唐田さんに「会いたい」というメッセージを送り、会っていたという。
このように東出さんが妻との約束を反故にすることを繰り返してきたのは、それだけ不倫相手と離れがたかったからだろう。また、たとえ約束を反故にしても、結局妻は許してくれて元の鞘に収まることができるはずと高をくくっていたのかもしれない。
杏さんとしても、両親のように離婚するのは嫌という気持ちが強く、これまでは約束を反故にされても許してきたのだろうが、さすがに何度も裏切られて、堪忍袋の緒が切れたのではないか。
反復強迫は、無意識のうちに繰り返してしまう傾向なので、理性ではどうにもならない。フロイトも、反復強迫から抜け出すのがいかに難しいかを繰り返し強調している。大切なのは、自分自身の反復強迫になるべく早く気づくことだ。気づかなければ、そのままずっと繰り返し、やがて身の破滅を招くこともある。
(文=片田珠美/精神科医)