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黒川智生の「アパレル、あばれる」

アパレル業界関係者が想像もつかない、今の“Z世代”の志向と行動様式

文=黒川智生/VMIパートナーズ合同会社代表社員
アパレル業界関係者が想像もつかない、今の“Z世代”の志向と行動様式の画像1
「PIXTA」より

Z世代(1990年代後半から2010年くらいまでに生まれた人々)にはどんな志向、行動特性があるのか?」

 昭和生まれのファッション関係者の多くが、理解が及ばない部分があるものの、いくつかのリサーチ結果やインタビュー記録を見て、何かヒントを得ようとしている。

 その前の「ミレニアム世代(1980年代から90年代前半に生まれた人々)」は“デジタルネイティブ”といわれたが、Z世代はさらに進化し“スマホネイティブ”であるという。日本に2008年夏にアップルのiPhoneが上陸したことを考えると、まさに納得の定義だ。Z世代は小学生の時からスマホを手にし、それがコミュニケーションの前提にあったわけだ。

 小学校高学年から中学生女子向けのブランドが開発されたのも、Z世代向けが初めてといってもよい。2008年にはワールドがピンクラテを、2010年にはアダストリアがレピピアルマリオを開店している。キャラクターを重視し、自分がアイコンになるシーンを飾る1点を気軽に買えるところができたのは画期的だったし、親が支払いをすることはあっても、“自分で選ぶ”ことが優先することは、新しい習慣になっていった。

「この世代の先頭である大学生の彼ら彼女らのリアルな意見に触れることは、アパレルを進化させる何かのキッカケになるだろう」と筆者は常日頃考えていた。ファッションは常に若い人が引っ張るといった従来論を繰り返すわけではない。“何か見えなくなっているニーズがあるかもしれない”という期待感から、Z世代の声を聞こうと考えたのだ。

“スマホファースト”世代の志向と行動様式

 その機会に恵まれたのは、先日、桜美林大学新宿キャンパスのビジネスマネジメント学群のあるクラスに伺った時であった。ファッションビジネスを学ぶ皆さんに「新規事業をどう創るか?」について講義したが、それに先立ち、皆さんに「今のファッションに不足することは?」という事前アンケートを実施したのだった。

アパレル業界関係者が想像もつかない、今の“Z世代”の志向と行動様式の画像2
UserLocal テキストマイニングで分析

 上記の画像はその記述内容をテキストマイニングソフトで処理して、キーワードを重要性に応じて整理したものである。その原文の中で、中心的なフレーズも紹介したい。

「個性。みんながみんな同じような服装をしていて、どのブランドも同じような洋服を売っている」

「服にお金をかける人が少ない。独自性が欠けている。若者の参入が少ない」

「独自性。生産を海外に投げ、消費者が本当に欲しいと感じているものを生み出す力が弱くなっている」

 毎シーズンごとに、流行らせたいテーマ、デザイン、色を決め、初期商品をお店やECに並べて、お客様の反応を見る。“他のブランドで○○なデザインが動いている”と聞けば、それに似たモノを早速つくる。そこに差異を持たせようとすれば値段を下げる。それを実現させるために海外生産を増やす――。

 こういう仕事は、Z世代から見れば魅力が薄いようだ。アパレル業界の皆さんが当たり前のように行っていることである。

 以前であれば情報が伝わるのに時間を要した。しかし、“スマホファースト”の世代にとっては、何かを比較して意見交換することは極めて容易である。そうなると、改めて「自分らしさを表現できる独自の一枚(一点)は何?」という問いが強く湧いてくる。いつもそんなに考えていないかもしれないが、「いざ買おう!」と思う時には、相当に吟味し、その効果やリセールの値段も慎重に見極める。そんなスタイルに、私たちが学ぶべきことが多いだろう。

アパレル業界関係者が想像もつかない、今の“Z世代”の志向と行動様式の画像3
「PIXTA」より

 嗜好に関わる部分であるが、下記のようなフレーズもあった。

「ラグジュアリーブランドのカジュアル化が目立っているため、昔のジャケットスタイルやフォーマルなものが選べるブランドが不足していると思います」

「冬服がどうしても高くなってしまうので、安い冬服を買えるブランド」

 多様なライフスタイルに応じた“カジュアル化”は大勢であるが、一方でトラッド要素やチェックをアイコンとするブランドが求められているのは、こうした意見が背景にあると考えるのか。

 暖冬が当たり前となる昨今、新しい“冬の過ごし方、動き方”に応じた商品の開発が必要だろうか。

 この2つの意見からも、独自性を発揮できる商品開発コンセプトにつながってくる。

 前例主義や効率を重視してきたアパレルであるが、このままではZ世代は離れていく一方で、ときどきしか接触せず、他の興味ある分野に時間を使うようになる。彼らの本音に触れ、従来型の視点では見えなくなった視点に学び、何かをカタチにして返すことで、ブランドや商品、サービスのファンを増やすことが、2020年には求められているだろう。

(文=黒川智生/VMIパートナーズ合同会社代表社員)

黒川智生/VMIパートナーズ合同会社代表社員

黒川智生/VMIパートナーズ合同会社代表社員

1988年 國學院大學文学部史学科卒。株式会社ワールド入社。
コルディア部営業、ファッションコンビニエンスストア「ITS‘DEMO」開発、株式会社ダブルジェイ事業推進部長を担当。
2006年3月 MINTCAFEとして、東アジア圏のファッション小売における知識創造へ貢献をテーマに独立。以後、日本国内外のファッション系小売各企業様を対象に活動中。
2008年5月 VMIパートナーズ合同会社設立。
現在の活動
一般財団法人ファッション産業人材育成機構IFIビジネススクール 講師(2009年より現在まで)
(PFクラス 事業計画+物流基礎、ロジスティクス研究会運営)
学校法人 文化学園  文化服装学院 講師(2020年より現在まで)
(ファッション流通専門課程)
日本マーケティング学会 所属
VMIパートナーズ合同会社ホームページ

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