避難所ってどんな所?
「食事が出ると思ったけど、何も出なかった」
「家族4人で毛布2枚しかもらえず、夜は冷えて辛かった」
昨年は、記録的なペースで大型台風が発生し、日本中で大きな被害が出ました。そのため、避難とは無縁と思っていた人々の「避難所体験」がSNS上で数多くみられるようになりました。
皆さんは、避難所にどんなイメージを描きますか?
「お弁当や温かい炊き出しが出る」
「避難所に行けば、役所の人が面倒をみてくれる」
このように思う人がいるかもしれませんが、避難所はホテルではありません。布団や食事が用意されているとは限りません。「最低限、命を守るための避難の場所」なのです。避難所の運営は、周辺住民組織を中心に、被災者自ら協力して運営して行くこととなっています。住民組織とは、だいたい「町会の自治会」を指していることが多いです。なお、台風などの場合、役所の防災担当者や施設のスタッフが避難所を開設することも多いです。
避難所の食事は、予算が決まっている。
基本的には、避難所になる施設には「乾パン」や「水」のような簡単な非常食が備蓄されています。しかし、予め予想される台風などの「避難所」では、その日に備蓄の非常食を配ることはありません。道路が寸断されて孤立した時など、文字通り非常時に「非常食」は活用されます。
台風や地震などで自宅が被災して自宅に戻ることのできない被災者は、そのまま避難所に留まることになります。避難所でも支援が届くようになると、「食事の配給」が始まります。避難者一人当たり一日の食事にかけられる費用は1160円、3食なら一食あたり368円。これが避難所の食事の予算です。
豪雨災害での、避難所での食事内容の一例です。朝はおにぎり、昼食はメロンパンやレーズンパンなど菓子パンがひとつ。夜は弁当。被災直後は電子レンジもなく、冷たいままの食事。数カ月間メニューはまったく同じ。業者や流通の関係もあり、同じメニューになりがちになってしまいます。はじめは食欲のあった被災者たちも次第に食欲を失い、体調を崩す人も多くみられました。ボランティアなどによる炊き出しは、限られていたといいます。
暴力も起こる場所
過去の大震災では、安全なはずの避難所で女性が夜間に襲われる被害が出ています。襲われた女性は30~60代と幅広く、気配や物音で事件が起こったことは周囲の多くの人が気付いていたのですが、見て見ぬ振りをするという状況下でした。被害者の女性も「この歳で襲われるなんて恥ずかしい」と口をつむぐことに。被害者も加害者も顔見知りが多いというなか、長期の極限状態ということもあり「輪を乱すべきではない」という考えが、過度の同調圧力につながり、女性の尊厳を踏みにじる犯罪を生みました。
避難所の運営マニュアルには、運営委員のなかに必ず女性を入れるようにと決められています。「着替え」「授乳」「トイレ」などにおいて、女性には配慮が必要ということです。避難所のリアルを知って、がっかりした人も多いと思いますが、覚悟と準備をもって臨めば乗り切れます。
「避難所」にある大きな利点
「在宅避難」と「避難所」では、プライバシーを考えると在宅避難に軍配が上がりますが、在宅避難ではかなわない、大きな利点もあります。それは「情報」です。自治体、自衛隊、家族を探す人、ボランティア、マスコミ、支援品など、いろんな人々やモノが集まって来ることによって、貴重な「情報」が結集されます。
「道路の復旧」「被害実態」「学校」「給水」「医療」など、「被災者支援情報」も避難所であれば申請書と一緒に入手できます。まわりは同じ境遇の人々ということもあり、相談できる相手も探せるでしょう。もし、あなたが「在宅避難中」であっても、定期的に「避難所」に出かけ、情報収集することをお勧めします。
避難所には気軽に行こう
避難所は快適とは程遠い場所ですが、ここで少し考え方を変えてみませんか。台風など、いち早く避難してくるご年配の方々を見ていると、それほど緊迫感のある様子ではありません。
公民館に来て、友達とおしゃべりをして、大丈夫だとなれば、笑顔で帰って行く。突然やってくる大地震では、こうはいきませんが、安全なうちに避難する姿勢は見習いたいものです。近年の被害拡大の原因のひとつに、避難勧告が出ていたにもかかわらず避難しなかったことで、命を落とす場合があります。何が起こるかわからない時代、避難所を見学するつもりで、慣れておくのも手です。
自治体は独自に「避難所運営マニュアル」を制作しています。詳しく知りたい人は、お住まいの自治体のホームページなどで確認しておくとよいでしょう。
(文=草野かおる/イラストレーター・防災士)