ビジネスジャーナル > ライフニュース > うどんを食べ落涙するコウケンテツ
NEW
文筆家・森下くるみがテレビを斬る!「エンタメとしての料理番組」第2回

人気料理研究家コウケンテツ…うどんを食べ落涙する熱血爽やかイケメンの“食への思い”

文=森下くるみ
【この記事のキーワード】, , ,
人気料理研究家コウケンテツ…うどんを食べ落涙する熱血爽やかイケメンの“食への思い”の画像1
扶桑社より刊行の『コウケンテツのだけ弁』

 とうとう40代に突入した子持ち文筆家・森下くるみが、毎日の生活のなかで息抜きのひとつとする「エンタメ料理番組」からお気に入りを紹介する本連載。第1回ではイギリス人フードライター兼料理人のレイチェル・クーさんを取り上げ、「20代、30代女性が主導する、生活に根ざした料理番組が日本でも放送されてほしい」と書いたが、第2回は、人気料理研究家のコウケンテツさんを語りたい。

 コウさんがどれだけ人気かはネットで検索してもらえればすぐにわかるのだけれど、レシピ本は30冊以上出てくるし、テレビの活動は、近年だと『きょうの料理』(Eテレ、毎週月曜〜水曜午後9時)、『おかずのクッキング』(テレビ朝日系、毎週土曜午前4時55分)、『ゴー!ゴー!キッチン戦隊クックルン』(Eテレ、毎週月曜〜金曜午後5時45分)、情報番組のミニ料理コーナー、『SWITCHインタビュー 達人達(たち)』(Eテレ、毎週土曜午後10時)など、とても追い切れるものではない。

 さっぱりした髪型、清潔感のある服装、満面の笑みと白い歯、すらりとした長身、コウケンテツさんのイメージはとにかく爽やかである。過去にスポーツの分野でプロを目指していたことがあるようで、軽やかな雰囲気はその時にみがかれたのだろうが、それじゃあ彼が「イケメン料理研究家」かというと、それは少し安易だ。コウさんのレシピを伝えるときの口調は極めて丸く、ホッとする。「優しいお母さん」という感じ。視聴者が魅力に感じているのはコウさんのイケメン度よりも、温かみや親しみやすさの方だろうとわたしは思う。

アジア、欧州、そして日本…旅シリーズが真骨頂

 そこでおすすめしたいのは、NHK BS1で放送された『コウケンテツが行く アジア旅ごはん』を含む“旅シリーズ”である。アジア編は、タイ、ベトナム、ラオス、マレーシア、台湾、香港・マカオ、中国の国境に近い集落など、そこに暮らす人々とコウさんの“食”にまつわる素朴な触れ合いを映していく。訪れるのは大都市の中心部にある高級レストランではなく、小さな町や村が中心で、現地の人が料理するのをコウさんが手伝い、出来上がったご飯は「その家の人たちと、その家の食卓で食べる」というのが肝だ。この現地生活さながらの体験記は、ほとんど「世界ウルルン滞在記 コウケンテツ編」といっていい。

 ヨーロッパ各地を回る『コウケンテツの世界幸せゴハン紀行』(再放送未定)も基本的な構成は一緒で、フランス、ドイツ、ギリシャ、デンマーク、ポルトガルなど、アジア編と同じく、生鮮市場やファストフードの屋台、大衆食堂などに立ち寄っている。フランス中部の町では、酪農家の営むチーズ店の地下にある工房を見学したあと、牛の飼育の手伝いをして、チーズを使った特製・クロックムッシュを彼らの家族や友人といただく。ドイツでは早い時間から地元のおじさんたちと生ビールを飲んだりするのだが、コウさん、どうやら無類のお酒好きらしい。取材中だからと控えめになるのではなく、気のいい親戚の兄ちゃんといった様子で、遠慮なくぐいぐい飲む姿は見ていて気持ちが良い。

 四国ロケを行った、前編・後編合わせて110分の番組『コウケンテツの日本100年ゴハン紀行「四国は食の宝島」』(「食材の王国!北海道」も視聴済み)は、旅×食を続けてきたコウさんの人間味が濃縮されている。旅は香川県・小豆島の福田港からスタートし、福田港名物の焼き穴子、瀬戸内国際芸術祭、四海漁協女性部のご婦人たちにハモ料理のレシピ(削ったレモンの皮で風味づけした、パプリカやトマトなど野菜がたっぷりの地中海風スープ)を提案するなど、町の人々との交流が続く。

人気料理研究家コウケンテツ…うどんを食べ落涙する熱血爽やかイケメンの“食への思い”の画像2
『コウケンテツの日本100年ゴハン紀行「四国は食の宝島」』(NHK公式サイトより)

うどんを食べて落涙

 削ぎ切りにしたボラの身をポン酢で試食したときに、コウさんがこうコメントする。

「……フグ超えた」

 わたしは思わず、「なるほど、フグより上か」と唸った。普通のタレントなら、「身がコリコリして〜」とか「ん〜さっぱりしてるのに旨みが〜」とか曖昧な言葉でしか表せないはずだ。わたしも素人なので、ボラの刺身? 白身魚だからまぁ淡白な味なのかな、としか想像できないレベルだが、こういったあまり身近でない魚の味を、一般の人に届きやすく簡潔に伝えられるのは、料理家として最強ではないかと思う。

 丸亀市にある純手打ちうどん「山とも」のシーンも良かった。このお店のうどんは麺を足で踏み込んでコシを出すのだけれど、なにしろ体験型の番組なので、コウさんも実演する流れとなる。一見して単純な作業だが、実は汗ばむほど疲れる重労働なのだという。若い店主が絶妙な加減に茹でて丼に盛ったシンプルなうどんを、コウさんはズズッと啜ってこう驚愕する。

「(噛まずに)飲んだほうがうまい……」

 そして、なんとコウさん、うどんを味わいながら落涙。そのときのコメントはこうだ。

「魂こめて作ってる。彼の生活とかすべてが詰まってますね、このうどんは」

「食べることが楽しい」という思い

 何か込み上げてくるものがあったのだろう。人柄がどうとか実際にはわからないけれど、コウケンテツさんの番組の評判の良さは、こうした彼ならではの感受性にあると思う。基本的にコウケンテツさんはフラットな人だ。大袈裟なところがない。だから、涙=感動=いい話、とはならない超ドライなわたしでも、「そうだよな、小麦粉と塩と水を練って細長くして茹でればうどんだなんて簡単なものじゃなくて、作った人が違えばうどんも違うものになるんだよな、何かを追求するのは途方もない道のりでそれこそ人生をつぎこむようなものだ……」と勝手にコウさんの言いたかったことを想像し、しみじみしてしまうのだ。

 もちろん夕飯に即活用できるレシピも大事だ。時短や節約できる献立、お弁当のネタ、味付けのバリエーション、写真映えしそうな盛り付けなど、料理研究家に求められることは山ほどあるだろう。ただ、食べることを大事に思うとき、人間同士のコミュニケーションは必要不可欠である。

 番組の最後で、「食べることが楽しいというのがまず先にあり、そこを経て美味しいに辿り着く」と、コウケンテツさんは実感を込めて語る。“楽しい・嬉しい、だから美味しい”という順番にハッとさせられる。忙殺される毎日の中で、わたしはこれをすっかり忘れていたから。

(文=森下くるみ)

森下くるみ

森下くるみ

1980年、秋田県生まれ。文筆家。著作に『すべては「裸になる」から始まって』(講談社、2008年)、『らふ』(青志社、2010年)、『36 書く女×撮る男』(ポンプラボ、2016年)など。

Twitter:@morikuru_info

人気料理研究家コウケンテツ…うどんを食べ落涙する熱血爽やかイケメンの“食への思い”のページです。ビジネスジャーナルは、ライフ、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!