早いところでは2月から全社員在宅ワークをする会社もありましたが、都会を中心に緊急事態宣言が発令されたことで、多くの会社が在宅ワークに切り替える事態になってきました。
私は今までオフィスワーカーを中心に、仕事のパフォーマンスを上げるための体調管理をサポートしていたのですが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、在宅ワーカーの体調管理の仕事が一気に増えてきました。
そこで見えてきたことは、通勤やリアルコミュニケーションがメインだった時代とはまったく異なる、新たなストレスや体調の問題が生まれているということです。
たとえば、睡眠でいうと、2019年に睡眠科学研究所が1万人を対象に行った調査では、50.1%の人が「不眠症の疑いが強い」という要改善レベルで、特に働いている世代はさらに悪い数値が出ていました。
しかし、今回の在宅ワーク切り替えによって、通勤時間がなくなったことやコミュニケーションにかける時間が減ったことで、ほとんどの方の睡眠時間が増えたと予測されます。
私たちがサポートしている会社(上場企業含む)に協力していただいてアンケートを取ったところ、「通常勤務時に比べて、現在の睡眠時間はどうなりましたか?」という問いに対して、80%以上の方が「少し増えた」「1時間以上増えた」と答えています。
2007年に流行した「睡眠負債」という言葉も過去のものになりそうです。アンケートでは睡眠以外にもいろんな角度から質問していますが、通勤している時に比べ、睡眠時間が増えていることは、ほぼ間違いないと思われます。
今まで多くのビジネスパーソンが睡眠負債を抱えていたところに、この在宅ワークと外出自粛によって睡眠問題が解消されることは、数少ない明るいニュースといえます。
しかし、今までの睡眠負債を減らすために、多く睡眠時間を取ることを日常化してしまうと、大きな落とし穴が待っています。
睡眠時間は長すぎてもパフォーマンスが下がる
日本だけでなく海外の調査でも、睡眠時間が長くなると死亡リスクが向上することがわかっています。
北海道大学医学部の玉越暁子教授が行った研究では、7時間以上の睡眠は死亡リスクが上昇し、短眠よりもリスクが高くなると発表されています。
さらに、ワシントン大学が1800人を対象に行った研究では、7〜9時間寝ているグループに比べて10時間以上寝ているグループは、鬱症状の発症率が約2倍あったと報告されています。
今までの睡眠負債を返済するために、最初の数日間であれば、普段より多く寝ることはおすすめできます。しかし、その後も長時間睡眠のパターンを日常化することは健康にとってもメンタル状態にとっても、悪影響が出る可能性が高くなります。
このように、在宅ワークによる生活パターンの変化は、睡眠ひとつをとっても、一見私たちにとって良い方向にいくように見えて、実は悪くなるパターンもあるのです。
新型コロナの影響で求められるようになった最適な働き方や生活のパターンは、こういった健康知識をベースに、試行錯誤しながら自分なりのリズムをつくっていきましょう。
(文=角谷リョウ/Lifree株式会社・取締役、パーソナルトレーナー)