「中生代白亜紀」といえば、恐竜の全盛期である。トリケラトプスがのし歩き、ティラノサウルスが覇を唱える。そんな時代だ。年代的には、約1億4500万年前から約6600万年前の7900万年間を指す。
今回は、そんな白亜紀の古生物の話をしたい。恐竜の話? いやいや、違う。今回は、“恐竜を襲っていた動物”の話だ。恐竜全盛期といえども、必ずしも恐竜が「絶対強者」というわけではなかったようだ。
恐竜を食べていた?超巨大カエルの正体
「ベールゼブフォ・アムピンガ(Beelzebufo ampinga)」というカエルが、白亜紀のマダガスカルにいた。断片的な化石から推測される大きさが41cmという、巨大なカエルである。推定体重は4.5kgに達する。
41cmがどれほどの大きさかといえば、現生種と比較してみるとわかりやすい。一般的に「大きなカエル」といえば、ウシガエルが挙げられるだろう。そのウシガエルの大きさは、18cmほどである。ベールゼブフォは、その2.3倍近い大きさだ。
現在の地球で最大のカエルはアフリカに生息するゴライアスガエルで、その大きさは32cmほどである。ベールゼブフォは、現生最大のカエルすら大きく上回る体の持ち主なのだ。
ちなみに、この「18cm」「32cm」という大きさは口先から尻先までの値である。脚の長さは含めていない。ベールゼブフォが脚を伸ばしたときの大きさについては言及された資料が確認できなかったが、ゴライアスガエルに関しては、脚を伸ばすと全体で80cmになるという記録がある。ベールゼブフォの大きさたるや、推して知るべしだ。
ベールゼブフォは、分類上は「ツノガエル類」というグループの近縁であるとされ、復元される姿も、現生のツノガエル類を参考にされることが多い。ツノガエル類は、その名の通り目の上に小さなツノがある。このグループには、複数の種類のカエルが属しており、そのなかにはベルツノガエルのようにネズミなどの哺乳類を食べる種もいる。
こうした現生近縁種の情報を基に、ベールゼブフォはかねてより「大型の獲物を捕食する、パワフルなカエルだったのではないか」とみられてきた。「ときには小型の恐竜をも食べていたのではないか」というわけである。
この考えを支持する研究が、2017年9月に発表された。アメリカ・カリフォルニア州立工科大学のA・クリストファー・ラッピンたちが、現生ツノガエル類の噛む力を分析し、そのデータをベールゼブフォに当てはめたのである。この研究によると、ベールゼブフォの噛む力は最大で2200N(ニュートン)に達したという。
2200Nという値がどれくらいか。12年に発表された別の研究によると、ヒトの噛む力が1000N前後、オオカミの噛む力が2000N弱とのことである。ラッピンたちの研究が正しければ、ベールゼブフォの噛む力はオオカミより強かったことになる。
オオカミよりも噛む力が強い巨大カエル。「恐竜を食べていた」という物証はまだ発見されていないが、恐ろしい存在であったことは間違いなさそうだ。
『白亜紀の生物 上巻』 本書は、シリーズ第7作目『白亜紀の生物 上巻』。 大きな絶滅イベントが発生することなく始まる白亜紀。 ジュラ紀の温暖湿潤な気候がそのまま引き継がれたため、“生物の天国”は白亜紀でも続きます。 恐竜はますます栄え、陸上世界に君臨。 一方で哺乳類も進化を遂げ、恐竜の幼体を襲うほどに力をつけていました。