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土屋健「楽しい古生物・化石の世界」

巨大カエルや大蛇、恐竜を食べていた可能性

文=土屋健/オフィス ジオパレオント代表、サイエンスライター

 もし「恐竜類の影に隠れて、こそこそと逃げ回るネズミのような哺乳類」というイメージしかお持ちでないようなら、それは残念ながら旧世紀の考えである。何かと恐竜時代に詳しい子どもたちにバレる前に、知識の更新をおすすめする。

 21世紀になって、恐竜時代の哺乳類について、かつてのイメージに変更を迫る発見が相次いでいる。それらの新知見によれば、もちろんネズミのような姿の小型哺乳類もいたが、モモンガのように空を飛んだりビーバーのように水中を泳いだりする哺乳類もいた。恐竜時代において、すでに哺乳類の多様化は始まっていたのだ。

 そんな哺乳類の中に、05年に中国の白亜紀の地層から化石が報告された「レペノマムス・ギガンティクス(Repenomamus giganticus)」がいる。レペノマムス・ギガンティクスは、がっしりとした顎と鋭い歯を持つ絶滅哺乳類で、そのサイズはなんと頭胴長80cmに達した。

巨大カエルや大蛇、恐竜を食べていた可能性の画像2イラスト=服部雅人

 頭胴長80cmという値は、現代の日本社会で盲導犬として知られるラブラドール・レトリバーとほぼ同じである。街中でラブラドール・レトリバーを見かけたら、「あ、あのサイズの哺乳類が恐竜時代にはいたんだ」と思いを馳せてみてほしい。「小型哺乳類」という言葉の範疇を超えていることを実感できるはずだ。

「レペノマムス」の名を持つ哺乳類は、レペノマムス・ギガンティクスのほかに「レペノマムス・ロブストゥス(Repenomamus robustus)」がいる。ロブストゥスはギガンティクスとよく似ているが、一回り体が小さい。

 このレペノマムス・ロブストゥスの化石の胃の部分を調べたところ、恐竜の幼体の化石が確認された。それは、胴体を真っ二つに切断されていたものの四肢はつながったままだった。

 これは、レペノマムス・ロブストゥスがこの恐竜を襲い、真っ二つに噛み切ったのちに丸呑みした証拠とみられている。体の小さいロブストゥスにできたことが、より大型のギガンティクスにできなかったとは考えにくい。盲導犬サイズのギガンティクスであれば、より成長した恐竜を襲うことができただろう。

 こうした各種の発見と研究からは、恐竜の全盛期といえども、恐竜たちにとってその“政権”は必ずしも安泰ではなかったことが見えてくる。確かに、ティラノサウルスに代表されるような大型の肉食恐竜などにとっては敵なしだったのかもしれないが、幼い子どもたちにとっては、哺乳類やヘビ、そしてカエルでさえ脅威だったのだ。
(文=土屋健/オフィス ジオパレオント代表、サイエンスライター)

【参考資料】
A.Kristopher Lappinほか,2017,Bite force in the horned frog (Ceratophrys cranwelli) with implications for extinct giant frogs,Scientific Reports,7: 11963,DOI:10.1038/s41598-017-11968-6

Jeffrey A. Wilsonほか,2010,Predation upon Hatchling Dinosaurs by a New Snake from the Late Cretaceous of India,PLoS Biol vol.8,no.3,e1000322. doi:10.1371/journal.pbio.1000322

Yaoming Huほか,2005,Large Mesozoic mammals fed on young dinosaurs,nature,vol.433,p149-152

『白亜紀の生物 上巻』(技術評論社/群馬県立自然史博物館監修、土屋健著)

土屋健/オフィス ジオパレオント代表、サイエンスライター

土屋健/オフィス ジオパレオント代表、サイエンスライター

修士(理学) 日本古生物学会会員 日本地質学会会員 日本文藝家協会会員
日本地質学会刊行一般向け広報誌『ジオルジュ』デスク
オフィス ジオパレオント

Twitter:@paleont_kt

『白亜紀の生物 上巻』 本書は、シリーズ第7作目『白亜紀の生物 上巻』。 大きな絶滅イベントが発生することなく始まる白亜紀。 ジュラ紀の温暖湿潤な気候がそのまま引き継がれたため、“生物の天国”は白亜紀でも続きます。 恐竜はますます栄え、陸上世界に君臨。 一方で哺乳類も進化を遂げ、恐竜の幼体を襲うほどに力をつけていました。 amazon_associate_logo.jpg

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